目の調子が悪くなった時や、眼病予防の目的で利用するものに薬やサプリメントがあります。薬の中には点眼薬や内服薬など様々なものがありますが、ここでは漢方薬と目の関係についてお話します。
漢方薬のキホン
「漢方薬」の他にも「生薬」「和漢薬」など、似たようなコトバで混乱しませんか?まずそこから整理していきましょう。
「生薬」「漢方薬」「和漢薬」のちがい
- 生薬とは
「生薬」とは、自然界に存在する動植物や鉱物など天然由来の医薬品の総称であり、漢方薬の原料になるものです。 - 漢方薬とは
生薬にはそれぞれの特性があり、作用をもつ一方、副作用があるものもあります。複数の生薬を配合することで、作用を強めたり、毒性や副作用を弱めたりなど、単体で使用するよりも効能が発揮されるように配合されているのが「漢方薬」です。 - 和漢薬とは
また、もともと日本人が日本の国土で独自に開発し、使用してきた生薬を「和薬」。中医学(=現代の中国医学)で使用されてきた生薬のことを「漢薬」といいます。「和漢薬」は東アジア地域で伝承、用いられてきたものをこの2つに加えた総称として使われています。
漢方薬の始まりと「東洋医学」
次に漢方薬の歴史について少しお話しします。
漢方薬(和漢薬)は自然の恵みを使い、はるか昔から現代まで私たちの生活に役立ってきました。漢方薬は、紀元7世紀に遣隋使や遣唐使を通じて、中国発祥の伝統医学「中医学」「ツボ療法」「鍼」「お灸」「あん摩」などとともに日本に伝わりました。さらに16世紀には環境や日本人の体質に、より適応した漢方医学に発展。
漢方というのは、「オランダ医学=蘭方(らんぽう)」と、日本の伝統医学を区別するために用いられ、さらに、西洋医学と区別する意味で「東洋医学」という言葉が使われるようになったのです。
自然治癒力を引き出し、体を整える
東洋医学では、心と体は一体であると考え、心身のバランスが整った状態を「健康」ととらえています。
病名に合わせて治療を選ぶというより、たとえ検査では明らかな異常がなく病名がつかないような場合でも、自覚症状を重視し治療対象とするのが東洋医学の考え方です。
また、細菌やウイルスを直接撃退することを治療の目的にするのではなく、病気に対する抵抗力や免疫力といった自然治癒力を引き出し、菌などに対抗できる体を作ることを目的としているのが特徴です。
そのため、目の疲れやかすみ目などの症状に対して、東洋医学では目に良い生薬はもちろん、目と関係の深い「肝」を整えるような漢方薬が処方されたり、食材をすすめられたりします。目と「肝」、その関係を理解するために、もう少し東洋医学の考え方に触れておきましょう。
目の健康に「カンジン」なのものとは?
生体を維持する3つの要素「気」「血」「水」
心と体の状態を把握する指標の一つが「気・血・水」という概念です。気・血・水が滞りなく体全体を巡っている状態が「健康」であり、巡りが悪くなったり偏りが生じたりすると不調が起きると考えられています。
「気(き)」は元気や気合い、根気といった言葉にあるように生命の源であり、エネルギーを表します。気持ちや気分のように心の状態も表し、特に大事な概念とされています。また、西洋医学でいう自律神経の働きに関与していると考えられています。
「血(けつ)」は血液に近いものを意味し、全身を滞ることなく巡り、体の隅々まで栄養を届ける働きがあります。
「水(すい)」は血液以外のリンパ液などの無色な体液のことで、臓器や粘膜、関節など全身を潤す作用があります。また、汗や尿によって余分な水分を体外へ排出することで体の水分バランスを調整しています。
健康を支える「五臓六腑(=ごぞうろっぷ)」
五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」を、六腑とは「胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦」のことをいい、臓器そのものだけでなく、各臓器が持つ自律神経や精神活動(意識や思考など)の機能も含めた概念的なものを示しています。
五臓は気・血・水など体に必要なものを作り出し、貯蔵する働きを持っています。六腑は食べ物を消化吸収し、不要なものを体外に排泄する通路となっています。
五臓と六腑は「肝と胆」「心と小腸」「脾と胃」「肺と大腸」「腎と膀胱」などが対となって相互の働きをサポートしています。そのため片方に不調が生じると対になる方も影響を受け体に不調が生じると考えられています。
目と繋がる「肝」と「腎」を整えて目の健康を維持!
目と関係の深い「肝」。
西洋医学でいう「肝臓」は消化器の一部であり、タンパク質の合成や解毒機能、胆汁の分泌などを行う臓器です。
東洋医学でいう「肝」は肝臓だけでなく、目、筋肉、爪などが関係の深い器官となり、代謝機能の他にも、目の機能を健全に保つ働きや怒りの感情をコントロールするなど、精神も含めた機能があると考えます。
「肝」は主に全身の気をスムーズに巡らせ、血を貯蔵する働きがあります。さらに、自律神経をコントロールしているためストレスの影響をもっとも受けやすいともいわれています。過度のストレスから身を守ろうとすると交感神経が常に緊張した状態となり、結果的に肝の働きが悪くなり、気の巡りが不安定になることで体に様々な症状が現れると考えられています。
「目」「筋肉」「爪」などは「肝」と関係が深いため、肝の働きが衰えると、これらにも影響が現れます。
例えば、目の周りのピクピクとしたひきつりや、目のかすみ、目の乾きなどの不調も「肝」が関係しているといわれています。逆に、目を酷使することで目の栄養源となる血を消耗し、肝の働きも低下させると考えられています。
また、老化に影響がある五臓は「腎」とされており、老眼の症状は「腎」の働きが低下している状態ととらえられています。肝や腎の働きが低下している状態で目を酷使すると、眼精疲労が生じたり目の症状が現れたりするため、肝と腎を整えることで全身の不調とともに目の不調が改善すると考えられます。
では、肝や腎を整え、目に良い働きがある生薬を2つ紹介しましょう。
目に良い生薬の代表「枸杞子」「菊花」
食べる目薬「クコの実」
薬膳などでも使われるクコの実は生薬名で枸杞子(くこし)といいます。「食べる目薬」ともいわれ、アミノ酸の一種であるベタインの他、ルチン、タンニン、ビタミンA、B1、B2、C、カルシウム、鉄、リン、ゼアキサンチンが含まれています。
血管を強化し血流をスムーズにする働きがあり、滋養強壮剤として使われたり、目に栄養を与えることで疲れ目や目の乾燥に良いとされています。また、血圧、血糖値、コレステロール値を下げるなどの効果も期待できます。クコの実はスーパーの中華食材の売り場や、インターネットでも購入することができます。
西太后も飲用していた「菊花」
「菊花(きくか)」は菊の花を乾燥させたもの。炎症を鎮めて熱を下げる作用があり、目の充血、かすみ目、目の疲れなどの症状を和らげスッキリさせる働きがあります。また、風邪の初期症状や頭痛にも効果的です。中国では2000年以上前から薬用として栽培され、菊花茶としても親しまれています。西太后が使っていた処方薬にも菊花が使われていたと明記されているそうです。
まとめ
前述した目に良い生薬以外にも、肝や腎を整える馴染みのある食材もあります。
肝の働きを助ける食材には、アサリやしじみ、人参、牡蠣、レバーなどが、腎の調子を整えて目の疲れをとる食材には、ハトムギ、山芋、アサリ、黒豆などが良いといわれています。
目の調子は良くしたいけれど、漢方薬や東洋医学にはまだ少し馴染めない…という方は、こうした身近な食材を意識して取り入れることから始めてみてはいかがでしょうか。
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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。
【参考】
・「やさしい東洋医学」 伊藤隆/木村容子/蛯子慶三 ナツメ社
・「絵でみる和漢診療学」 寺澤捷年 医学書院
・生薬とは 日本製薬H P
https://hino-seiyaku.com/crude_drug/about/
・漢方東西薬局
https://tozai-yakkyoku.com/katei/meme.html
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