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目の症状や病気と予防・治療法

若者と約4倍差!高齢者の見えにくさは光の感じ方が原因?

年齢を重ねることで、昼間より夕方、明るい場所より薄暗い場所で見えにくくなるといった経験をお持ちの方は多いでしょう。これは「コントラスト感度の低下」が原因だといわれています。

コントラスト感度とは、はっきりとした輪郭をもたず、しかも濃淡の差も少ない模様を識別できる能力を示したものです。テレビやパソコン画面で色の調整をするときに、コントラスト調整を利用した方もいるかもしれませんね。コントラスト感度は薄暗い状況下ほど低下し、高齢者がそれによって見えにくさを感じることまでは分かっていましたが、その原因に関する新たな報告が発表されました。

2019年2月にフランスのソルボンヌ大学が「高齢者と若者の光の感じ方」についての論文(※1)を発表。高齢者のコントラスト感度低下の原因を知るために、若者との光の感じ方の違いについて測定した興味深い研究を行ったのです。今回は、その研究論文を紐解いていきたいと思います。

高齢者は光の感じ方が若者に比べ約4倍もの差が

著者らは、目に障害や病気のない健康な20人の若者(平均26.5歳)と20人の高齢者(平均75.9歳)を集め、コントラスト感度を測定すると共に、網膜の光受容体における光の吸収率についても測定しました。

結果、目の病気を持たない健康な高齢者であっても、若者にくらべるとコントラスト感度は低下しており、その原因は主に「網膜の光受容体の吸収効率が低くなっていた」ことによると報告されたのです。

私たちの目の奥にある網膜には、光に反応して刺激を脳に伝える役割を担う視細胞が数多く存在し、光を感じることができます。その視細胞を構成している細胞の一種である錐体細胞(すいたいさいぼう)は、明るい場所で色彩を認識する機能を持っています。高齢者は若者に比べ、この錐体細胞の光吸収率が約4倍も差があることが分かったのです。光吸収効率にこれだけ明確な差があると判明したのは、驚きの事実といえるでしょう。

健康な目をもつ高齢者でもコントラスト感度は低下する

これまで加齢によるコントラスト感度の低下は、加齢に伴い増える水晶体の濁り(白内障)や黄変化により、そもそも網膜に到達する光の量が減少することが原因と考えられていました。しかし今回の研究では、事前に検査し目に病気を抱えていない高齢者だけを対象としたため、水晶体が光吸収効率に影響するという懸念は排除されています。

また加齢による縮瞳(※しゅくどう)も光が網膜に届きにくい要因であるため、測定の際には若者も高齢者も同じく、被験者全員に同じ人口瞳孔を使用し、縮瞳による光量の差が検査に影響しない方法をとっていました。

※縮瞳とは瞳孔が縮小することです。人は通常外部からの光の影響を一定に保つため、瞳孔を開いたり縮めたりして調整しますが、加齢によっても縮瞳が起こり、光が網膜に届きにくくなります。

この研究結果から分かることは、目に病気がない高齢者であっても、なんとなく見え辛さを感じてしまう要因のひとつであるコントラスト感度の低下の原因に、網膜の光感受性の加齢による低下が関係していたということが示されました。

コントラスト感度の低下、その対策に有効な方法とは?

夕方や夜間になると特に見えづらさを感じるコントラスト感度の低下ですが、メガネやコンタクトレンズなどで補強できるものでもありません。

2009年の研究では、シューティング型のビデオゲームによってコントラスト感度が改善したという面白い論文(※2)も発表されていますが、ビデオゲームによる目の疲労の影響を考えるとあまり現実的な方法とは言えませんね。

他に、コントラスト感度の改善が期待される研究領域としては、ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜に含まれるカロテノイドの一種「ルテイン」や「ゼアキサンチン」の摂取が挙げられます。ルテインとゼアキサンチンを継続的に摂取することで、コントラスト感度が改善されたという研究(※3)や、そもそもルテインやゼアキサンチンが光受容体の細胞にとって重要な成分であり、加齢と共に目で減少していることも知られているなど、研究が進んでいる成分のひとつです。そのため、国内でも機能性表示食品(※4)として広く販売されています。

 

今回の論文からは、日常の見えにくさの原因のひとつとして、加齢に伴うコントラスト感度の低下が起きていること、そして加齢に伴う目の病気が影響しているだけではなく、加齢に伴う光の感受性の低下が影響していることが分かりました。

高齢者が増加している日本の現状を考えると、コントラスト感度の低下による見えにくさを解消できるような研究が進んでいくことを望みたいものです。

 

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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考】
※1 : Silvestre D, et al. Healthy aging impairs photon absorption efficiency of cones. Invest Ophthalmol Vis Sci, 2019; 60(2):544-551.
※2 : LI R., et al. Enhancing the contrast sensitivity function through action video game training. Nat. Neurosci., 2009: 12(5): 549-551.
※3 : ファルマシア,52巻,6号,P534-538,2016,機能性表示食品におけるルテインと ゼアキサンチンの科学的根拠
※4 : 大塚製薬株式会社,2016年1月,表示しようとする機能性に関する研究資料

【画像】
szefei / Shutterstock

この記事を書いた人

小川 健二郎

薬学博士

宮崎大学 農学系食品科学研究領域 テニュアトラック助教。目の健康をテーマに宮崎県産の食品の健康機能研究を行う。視覚障がい者マラソンに伴走者として参加し、活動を通じて全盲の女性と結婚。目に障がいをもつ妻とともに歩んでいるからこそ見えてくる苦労や目の大切さを多くの人に伝えるため、メノコト365では目の研究を中心に、病気や障がいを防ぎ健康維持に役立つ情報を発信しています。

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