新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発表され、家で過ごすお子さんが増えているのではないでしょうか。今回は、家の中でも簡単にできる実験のやり方を交えながら、「アントシアニン」という不思議な天然色素のことを紹介します。
アントシアニンの特徴
さて、皆さんはアントシアニンってどんなものか知っていますか?
アントシアニンとは、ブルーベリーやナス、黒豆の皮に含まれる青紫色の天然色素です。果物や野菜だけでなく、アジサイやリンドウ、キキョウなどの青色の花にも含まれます。
自然界には様々な種類のアントシアニンが存在しています。アントシアニンには、基本的な形が一つあり、ほんの少しの構造の違いによって種類がわかれています。これまでに発見された種類は500以上もあるといわれています。それぞれの構造ごとに、「○○ニン(○○ジン)」という名前がついています。
アントシアニンの特徴を活かすと、おうちでも簡単に実験ができてしまいます。
アントシアニンは水に溶け、周りの環境によっても色が変わる性質をもった天然色素です。紫キャベツや紫玉ねぎをお湯で煮ると、簡単にアントシアンを野菜から抽出(取り出すこと)できます。アントシアニンの溶け出した水は、紫色をしています。
この、アントシアニンの溶け出した水(中性)にレモン汁やお酢(酸性)、重曹やにがり(アルカリ性)などを混ぜると、紫一色だったものがあ~ら不思議。色が変化するのです。
アントシアニンは、中性では紫色を示しますが、酸性では赤色、アルカリ性では青色に、溶液中のpH(ペーハー)によって変化する性質があります。
小学校高学年か、中学生のころにリトマス紙を使った理科の実験をしませんでしたか? 実はあれと同じ仕組みなのです。pHというのは、酸性やアルカリ性などの強さを測る数値です。酸性雨や胃酸は酸性。石鹸水はアルカリ性です。
例えば、梅干しに入っている赤シソが赤いのは、酸性の梅干しの影響で、赤シソに含まれるアントシアニンが赤くなるからです。また、赤シソジュースはピンク色をしていますが、あれは梅、レモン汁、クエン酸など酸性のものが入っているからです。
一方、ホットケーキや蒸しケーキにブルーベリーを入れると、色がくすんでしまいます。これは、ケーキに入れるベーキングパウダーの成分である重曹がアルカリ性のため、アントシアニンの色素が緑色や灰色に変色してしまうからです。
場所によってアジサイの花の色が違うことも、土壌のpHの違いによって色が変わる、アントシアニンの性質による影響であるといわれています。
アントシアニンの作用①活性酸素を除去
アントシアニンは、活性酸素という攻撃力の高い酸素を除去する働きがあります。
活性酸素とは、呼吸などで体に取り込んだ酸素が体の中で変化した、攻撃力の高い酸素のことです。本来は、外から入ってきたウイルスや細菌を攻撃して体を守ってくれますが、増えすぎると自身の血管や細胞にダメージを与えてしまうなどの悪さをします。
アントシアニンの作用②病気の予防効果
アントシアニンは抗酸化作用が高いとお伝えしましたが、糖尿病などの生活習慣病にも有効なのでは?という研究結果があります。
2014年に、イギリスのイースト・アングリア大学から発表された研究論文では、18〜76歳の女性を対象に行われた調査で「アントシアニン」やポリフェノールの一種である「フラボン」を摂取している人はインスリン抵抗性が相対的にみて低いという結果が発表されました。インスリン抵抗性が低いということは糖尿病を引き起こすリスクを軽減する可能性につながりそうです。
アントシアニンの作用③目の健康効果
アントシアニンは、網膜に存在するたんぱく質「ロドプシン」の再合成を促す働きがあるという研究論文が1968年に発表されています。
ロドプシンは、網膜に存在する光受容細胞(視細胞)の中にあります。ロドプシンが分解されることで、光の情報が網膜上で電気信号に変換されます。その後、一度分解されたロドプシンは再合成され、繰り返し働きます。ロドプシンはものを見る際に重要ですが、目を酷使するとロドプシンの再合成が追いつかなくなることがあるようです。
1968年の研究論文では、分解されたロドプシンの再合成をアントシアニンが促進するかを検証しており、この論文をきっかけにロドプシンとアントシアニンの関係が注目された可能性があります。
アントシアニンの健康作用についてまとめた記事は、こちらもご覧ください。
■アントシアニンの目や体への健康効果とは?これまでの研究結果を紹介
■ビルベリーの成分は目にいいって本当?健康効果について研究論文をまじえて紹介
さて、アントシアニンとはいったい何なのか、ご理解いただけましたでしょうか?
おうち時間を楽しく過ごすために実験によって体験してみたり、健康になりたいときに食べたり飲んだりなどいろいろな場面で使えそうですね。
もし、スーパーで紫色の食べ物を目にしたり、道端で青色の花を見かけたときは、「ここには何ニンが含まれるのかな~」と思いを馳せてみてくださいね。
※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。
<参考情報>
アントシアニン色素のスーパーオキシドアニオン消去能の測定
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1995/50/11/50_11_499/_article/-char/ja/
Anthocyanin
Composition and Antioxidant Activity of the Crowberry (Empetrum Nigrum) and Other Berries
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18522397/?from_term=Kenjirou+Ogawa&from_pos=8
Jennings A, Welch AA, Spector T, Macgregor A, Cassidy A. Intakes of anthocyanins and flavones are associated with biomarkers of insulin resistance and inflammation in women.
Goyarzu P, Malin DH, Lau FC, Taglialatela G, Moon WD, Jennings R, Moy E, Moy D, Lippold S, Shukitt-Hale B, Joseph JA. Blueberry supplemented diet: effects on object recognition memory and nuclear factor-kappa B levels in aged rats.
Y Ozawa, M Kawashima, S Inoue, E Inagaki, A Suzuki, E Ooe, S Kobayashi, K Tsubota . Bilberry Extract Supplementation for Preventing Eye Fatigue in Video Display Terminal Workers. J Nutr Health Aging 2015; 19 (5), 548-54
厚生労働省 平成20年技術革新と労働に関する実態調査結果の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/08/index.html
【画像】
Danijela Maksimovic,IanRedding / Shutterstock
rinkotoさんによる写真ACからの写真