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子どものブルーライトカット眼鏡は逆効果?気になるニュースの裏側を解説!

パソコンを使って画面を見るメガネをかけた男の子

2021年4月14日、日本眼科学会、日本眼科医会、日本近視学会、日本弱視斜視学会、日本小児眼科学会、日本視能訓練士協会の6学会が共同で、ある見解を発表しました。

それは、「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」です。
どんな内容が発表されたのか、順を追って説明していきます。

日本眼科学会:小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見

発表されたポイントは4つ

14日に各メディアを通してリリースされた内容を端的にまとめると以下の4点になります。

  • 液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少ない
  • 小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるものである
  • 科学誌「American Journal of Ophthalmology」 で発表された研究では、ブルーライトカットの有無で眼精疲労の変化に対する有意差はなかった
  • 就寝前ならともかく、日中にブルーライトカット眼鏡をあえて装用する有用性は根拠に欠ける

これだけではブルーライトカット眼鏡が悪いのか良いのかが分かりにくいです。実際の過去の研究をもとに解説します。

科学誌「American Journal of Ophthalmology」の研究内容

今回の発表で引用されている、米国の科学誌「American Journal of Ophthalmology」で発表された研究の概要は次のとおりです。

内容

  • 120人のヒトを均等に2グループに分けて、片方のグループはプラセボ(偽薬)を、もう片方のグループにはブルーライトカットの眼鏡を装着
  • 2時間のパソコン作業を実施
  • その後、眼精疲労の症状スコアと、フリッカー値から疲労度を測定

結果

  • プラセボとブルーライトカットレンズのグループの間で2時間のコンピューター作業後の眼精疲労度に差がなかった
  • 有害事象はどちらのグループにもなかった[1]

研究結果からわかること

この結果から確実にわかることは、「2時間のパソコン作業で生じる眼精疲労に対しては、ブルーライトカットレンズかそうでないかは影響しない」ということです。

今回の研究だけでは、もっと長時間パソコンを使って作業した時の影響はわかりません。影響があるかもしれないし、ないかもしれないということになります。

さらに、ブルーライトカット眼鏡による、眩しさやチラつき、コントラストアップなどについても、今回の研究では調べていないので、効果があるのかないのか、これもわかりません。

今回の研究でわかった「ブルーライトカットと眼精疲労軽減の間に有意な相関がなかった」ということと、以前よりいわれている「太陽光が子どもの目の発育に必要」という説とを合わせて考えることから、「子どものブルーライトカットは悪影響が出るかもしれません」という見解になったのではないかと考えられます。

では、子どもの目にとってどうして太陽光が必要なのでしょうか。

子どもの目にとってなぜ太陽光が必要なのか?

子どもにとって太陽の光は心身の発育に好影響を与えるものであり、十分な太陽光を浴びない場合、子どもの近視進行のリスクが高まることがわかっています。

なぜなら、子どもの目の発育、近視抑制には太陽光に含まれるバイオレットライトが必要といわれているためです[2,3]。

バイオレットライトと可視光線

JINS HPより引用

液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも弱く、網膜に障害を生じさせるレベルではないといわれています[4]。

ブルーライトカット眼鏡が眼精疲労の軽減に役立つわけでもないのであれば、子どものうちから、わざわざ眼鏡をかけてまでブルーライトをカットすると近視の抑制ができなくなり、子どもの目にとって良くないのではないか、という見解になります。

そのため、「子どものブルーライトカット眼鏡の装用は悪影響が出るかもしれません」というのが今回の発表なのです。

今回の研究以外に、ブルーライトに関しては、今までに様々な研究が行われ、報告されています。

そもそもブルーライトは目に悪いの?悪くないの?

ブルーライトの過剰な曝露によって、目の細胞が死滅するという研究、報告がいくつかあります。目の細胞が死滅することによって、結果的に網膜の厚みが薄くなり、視機能が低下します[5,6]。

そして、ブルーライトカット眼鏡を通すことで、網膜細胞の保護や網膜の厚みが維持できるという報告もあります[7,8]。

これらの研究のブルーライトの光量は、日常生活でスマホやパソコンから発せられる光量よりも過剰です。しかしながら、長時間、さらに長期にわたってブルーライトを浴びることの危険性はいまだ研究中で、安全とはいい切れません。

したがって、ブルーライトを浴びることはダメージとなり、それがブルーライトカット眼鏡によって保護される可能性は十分に考えられます。

ブルーライトで眼精疲労になるの?

ブルーライトが目の疲れ、眼精疲労の原因の一つである可能性については、かねてからいわれていることです。

その理由として、ブルーライトは波長が短く、空気中のちりやほこりにぶつかった時に右や左に散乱しやすいという性質があります。
そのため目に入る際に「チラつきやすい」という特徴があり、チラチラするものを目が頑張って見ようとするために「目が疲れる」といわれています。

ブルーライトは目以外にも影響するの?

ブルーライトはサーカディアンリズム(体内時計)に重大な影響を与えることがわかっています。

目からブルーライトが入ると脳は「今は昼だ!」と判断し、体内時計に作用して目を冴えさせ、眠れなくなる原因になるからです。
そのため、日中元気に活動するためには、朝、ブルーライトを含む太陽光を浴びることは大切ですが、夜浴びてしまうと眠れなくなってしまうと考えられています。

20代の女性を対象に、ブルーライトを約50%カットする眼鏡をかけた場合と素通しの眼鏡をかけた場合で、平日の就寝1時間前にスマートフォンを見てもらって比較検証したところ、2日目と3日目までは差がなく、4日目以降になると素通しの眼鏡では総睡眠時間が減り、目覚めないで寝ている最長睡眠時間も短くなりました[9]。

まとめ

今回、日本眼科学会などから報告された内容は、あくまでも子どもの目に対する見解であり、一律でブルーライトカット眼鏡が悪いものであるとも、役に立たないともいわれているわけではありません

大人にとってのブルーライトカット眼鏡の作用は今回の研究では明らかにされていませんので、実際に使用してみた時に、コントラストアップやチラつき、眩しさの軽減などの効果を感じるようであれば、ご自身の目に合ったものをお使いいただくと良いのではないでしょうか。

目に与えるダメージを少しでも軽減することが、大切な目を守ることになるのは間違いないのですから。

 

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考】
※1 Singh S, et al. Do blue-blocking lenses reduce eye strain from extended screen time? A double-masked, randomized controlled trial. Am J Ophthalmol, 2021, 226, 243-251.

※2 Eppenberger LS, et al. The role of time exposed to outdoor light for myopia prevalence and progression: A literature review. Clin Ophthalmol 2020;14:1875-1890

※3 Ofuji Y, et al. Axial length shortening in a myopic child with anisometropic amblyopia after wearing violet light-transmitting eyeglasses for 2 years. American Journal of Ophthalmology Case Reports. 2020; 20:101002

※4 綾木雅彦、他.住宅照明中のブルーライトが体内時計と睡眠覚醒に与える影響.住総研研究論文集 2016;42:85-95

※5 Kuse Y.et al., Damage of photoreceptor-derived cells in culture induced by light emitting diode-derived blue light. Scientific Reports, 2014;4: 5223

※6 Nakamura M.et al., Exposure to excessive blue LED light damages retinal pigment epithelium and photoreceptors of pigmented mice. Experimental Eye Research, 2018;177, 1-11

※7 Narimatsu T.et al., Blue light-induced inflammatory marker expression in the retinal pigment epithelium-choroid of mice and the protective effect of a yellow intraocular lens material in vivo. Experimental Eye Research, 2015;132:48-51

※8 Hiromoto K.et al., Colored lenses suppress blue light-emitting diode light-induced damage in photoreceptor-derived cells. J. Biomed. Opt., 2016;21(3), 035004

※9  「ブルーライトと生体リズム」 杏林大学医学部 精神神経科学教室 古賀良彦、ブルーライト研究会

この記事を書いた人

メノコト365編集部

目の健康に関するあらゆる情報を発信しています。子どもたちが健やかな目で生活できるように、小さなうちから正しい健康習慣を身につけてもらうための健育イベントを開催するなど、目の健康について意識を高めるきっかけになることを願い様々な活動をしています。

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