網膜静脈閉塞症の治療薬最新事情!お薬専門家原英彰教授が解説

  • 原 英彰
  • 岐阜薬科大学教授

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網膜静脈閉塞症のイメージ図

皆さんは網膜静脈閉塞症(RVO:Retinal Vein Occlusion)という病気をご存じでしょうか?

一般の方はあまり聞いたことがない病名かもしれませんが、血圧が高い方や慢性腎臓病を持つ方に発症しやすいことが分かっており、原因の多くは動脈硬化が関わっていると考えられています。

実は40歳以上の日本人の約2.1%は網膜静脈閉塞症を発症しているといわれており、年齢と共にその発症率が増加します。40歳以上の50人に1人が発症していると考えると非常に身近な病気であるといえます。

生活習慣が関わる目の病気、網膜静脈閉塞症。どんな病気なのか、どんな原因で起こるのか、治療するにはどんな薬があるのか。さらには、最新動向としてどんな研究が行われているのか、具体的に解説してみましょう。

網膜静脈閉塞症(RVO)ってどんな病気?

網膜静脈閉塞症眼底出血と黄斑浮腫の様子

出典:公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
URL:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ganshikkan/momakujomyakuheisokusho.html

網膜静脈閉塞症は文字通り網膜内にある静脈血管が閉塞することで、視野が一部欠けたり、目がかすんだり、急激に視力が低下する病気です。

網膜内の静脈血管が閉塞すると、その部位から水分が漏れだして網膜内で浮腫の形成や出血が起こり、これが視力の低下につながります(図1)。さらに、病態が進行すると様々な合併症を伴う場合があります。

代表的な合併症としては、硝子体出血、網膜剥離、血管新生緑内障などがあげられます。これらの合併症を伴うとさらに予後が悪く、視力に対する影響が大きくなります。

病気の原因は動脈硬化!毎日の生活習慣や加齢が影響する?

網膜静脈閉塞症は網膜内にある静脈が閉塞する病気です。つまり、血が流れなくなります。網膜内で動脈と静脈が交叉している部位では、動脈によって隣接している静脈が圧迫されることがあります。静脈が圧迫されることで血液の流れが悪くなり、血栓が生じて血管が閉塞してしまいます。

血管が血栓で詰まってしまう主な原因として、高血圧や脂質異常症、糖尿病に由来する動脈硬化があげられます。これらは、生活習慣や加齢との関連性が指摘されることが多い疾患で、この観点から網膜静脈閉塞症は皆さんの日々の生活に関係している病気であるともいえます。

網膜静脈閉塞症の自覚症状としては、視野が欠けたり、かすんで見えるなどありますが、これらの症状は早期に気付くことが難しく、患者さんが認識した時にはかなり進行しているということも少なくありません。

症状にいち早く気付くためには、片目ずつ視力の低下や見え方の異常をチェックすることがポイントになります。気になる方は早めに病院に行き、検査を受けましょう。

網膜静脈閉塞症の治療法は?お薬はあるの?

筆者が認識している限りになりますが、網膜静脈閉塞症の治療で一般的に行われている方法を紹介します。現在の治療方法としては、治療薬として抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体薬やステロイド薬が、その他の治療としてレーザー光凝固治療や硝子体手術などを用いるのが一般的です。

①抗VEGF抗体

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑部のむくみには血管内皮増殖因子(VEGF)が大きく関与しています。抗VEGF抗体はVEGFと受容体の結合を妨げることで黄斑部のむくみとそれに伴う視力低下を抑制します。現在承認されている薬としては、ラニビズマブ(ルセンティス)とアフリベルセプト(アイリーア)があります。

実際の医療現場では、この治療方法で症状が軽くなる患者さんも多くいるようですが、抗VEGF抗体薬を使用してもむくみの再発や効果が見られない患者さんもいるのが現状のようです。また、継続して注射を行わなければならないので、患者さんの身体的負担やコスト面の課題もあります。

②ステロイド薬

抗VEGF抗体の他にむくみを抑えるための薬として、トリアムシノロンなどのステロイド薬もあげられるでしょう。しかし、ステロイド薬は網膜静脈閉塞症の治療薬として承認されてはいないため、医師との相談のうえで使用されています 。

③レーザー光凝固治療

レーザー光凝固治療は網膜のむくみのある部位に直接レーザーを当てて、直接網膜を凝固させ、病態の進行を抑える治療法です。この治療は古くから行われてきましたが、レーザーを照射した眼底に痕(瘢痕はんこん)が残ることが問題とされてきました。

しかし近年、瘢痕ができないエネルギーの小さいレーザーによる治療も行われるようになってきており、患者さんの負担が少ないとされる治療法として注目を集めているようです 。

④硝子体手術

硝子体は眼球内部に存在するゼリー状の組織です。手術により眼内の硝子体を取り除き、人口の液体に置き換えることで、浮腫を軽減する治療法です。

近年、手術の安全性は向上していますが、合併症の危険性や薬物療法による治療が普及してきたこともあり、以前ほど積極的には行われていないようです。

網膜静脈閉塞症研究の最新動向は?

近年の網膜静脈閉塞症の研究として、患者に近い病態を持つ動物(疾患モデル動物)を用いて病態の原因解明や治療法の探索を行う研究が進められています。

例として、岐阜薬科大学の私たちの研究室で行った、治療法における最新の研究内容を紹介しましょう。

私たちの研究チームでは、マウスの眼にレーザーを照射し網膜静脈を直接閉塞させる網膜静脈閉塞症モデルマウスを作製し、網膜静脈閉塞症の患者さんと同様の眼底出血や網膜浮腫といった症状が現れているマウスで研究しています(図2)。

網膜静脈閉塞症マウスモデルの網膜浮腫の様子

このモデルマウスを使って抗VEGF抗体薬に代わる、網膜静脈閉塞症の新しい治療ターゲットの探索を行なっているのです。これまでに、血管拡張薬であるカリジノゲナーゼ、緑内障治療薬であるリパスジルについての効果を報告しており、クチナシの果実等に含まれる色素成分のクロセチンについても、あらたに効果を確認し、もうすぐ論文でも発表する予定です。

これらの薬やサプリメントが実際のヒトにおいて有効であるか否かについては今後検討されることを期待しています。

生活の中での予防が重要な網膜静脈閉塞症

網膜静脈閉塞症は生活習慣による疾患が原因となり得る病気であり、この観点から皆さんの生活習慣を改善することで予防効果が期待できるといえるのではないでしょうか。治療薬はあるもののまだまだ課題が多いため、まずは病気にならないよう生活習慣に気をつけることが大切です。

もし、日常生活の中で見え方がおかしいと感じたり、視野が欠けたり、かすんで見えると感じたときは眼科を受診してください。気付きづらい病気であるため早期発見、早期治療を心がけましょう。

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

 

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【参考】
Fuma S, et al., (2017) A pharmacological approach in newly established retinal vein occlusion model. Sci. Rep. 7, 1–14
Nishinaka A, et al., (2017) Effects of kallidinogenase on retinal edema and size of non-perfused areas in mice with retinal vein occlusion. J. Pharmacol. Sci. 134, 86–92
Hida Y, et al., (2018) Effects of ripasudil, a ROCK inhibitor, on retinal edema and nonperfusion area in a retinal vein occlusion murine model. J. Pharmacol. Sci. 137, 129–136

【画像】
TOMOKA.M,Martina Badini / Shutterstock

この記事を書いた人

岐阜薬科大学教授

原 英彰

薬学博士。薬剤師。岐阜薬科大学副学長、薬効解析学教授。製薬企業の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬などの新薬の研究開発に従事。脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っている。

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