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目の症状や病気と予防・治療法

白内障治療は手術だけ?治療薬はないの?お薬専門家原英彰教授がそんな疑問を解説

ここ最近、目がかすむ、ぼやけて見えにくい、ものが二重三重にだぶって見えるなどの症状はないでしょうか。他にも、晴天時に外出した際や対向車のライトを目にした際、特にまぶしさを感じたことはありませんか? さらに、遠くが見えにくく感じるために、近視が進行したかのように勘違いしてしまう場合もないでしょうか?

様々な原因が考えられますが、これらの症状は白内障にもよく見られる症状です。

白内障は加齢と共に病気が進行し、放っておくと失明に至ることもある病気です。

失明と聞くと非常に恐ろしい病気のように感じますが、適切な治療を受けることである程度はそのリスクを回避できる病気でもあります。

一般的に白内障の治療法といえば手術を思い浮かべますよね。実はそれ以外に、薬も使われていることをご存じでしょうか?

手術は唯一の白内障治療の手段といわれていますが、生活に支障が出ていない初期の場合には、白内障の進行を和らげる目的でお薬が使われることがあります。

今回は白内障が起こるメカニズムや治療法、そして最新のお薬事情や研究情報などを交え、白内障で使用する治療薬について紹介します。

白内障ってどんな病気?

世界失明原因の円グラフ

白内障は実は世界では失明原因第1位の病気ですが (図1)、この要因には、白内障の手術を受けられない患者さんが発展途上国には多く存在するという背景があります。

一方、手術を受けられる患者さんが多い先進国では白内障によって失明に至ることはそれほど多くはないのです。したがって、白内障では手術療法が重要な治療選択肢となっています。

水晶体の役割を表す図

さて、白内障では目のどの部分が障害されてしまうのでしょうか。それについては、まず人体の目における水晶体の働きを知る必要があります。

水晶体は前眼部に位置し、人体で唯一透明な組織です。まさにカメラのレンズの如く光を透過・屈折させることによって網膜で焦点を合わせることが可能となり、私たちはものを見ることができるようになります(図2)。

しかし、この水晶体がある要因 (後述) によって白濁してしまい、上手く光が水晶体内を透過・屈折できずに網膜で上手く焦点を合わせられず視野が障害されてしまった状態が白内障なのです。

どうして白内障になってしまうの?

ではなぜ、水晶体が白濁して白内障になってしまうのでしょうか?

水晶体が白濁する要因には、加齢、先天性の病気 (風疹などへの罹患)、外傷 (目のけがによるもの) やステロイド投与による副作用などがあります。この他にも、アトピー性皮膚炎や糖尿病なども白内障発症の要因となります。

このうち、最も多い要因は加齢によるものであり、「加齢性白内障」と呼ばれます。加齢は最大の危険因子であり個人差こそあるものの、誰でもある程度は年を取るにつれて水晶体は濁ります。

では、加齢がどの様に水晶体を白濁させてしまうのでしょうか。少し細かいお話をする前に、身近にあるもので、普段は透明であるけれども、何かストレスをかけた際に白くなるものを想像してみてください。…思いつきましたでしょうか?

そうです、卵白を焼いたり煮たりすると白くなりますよね? 原理的にはその現象と同じです。

水晶体を構成する成分の1つにクリスタリンタンパクという透明なタンパク質があります。このタンパク質を構成するアミノ酸にストレスが掛かるとクリスタリンタンパクが変性し、凝集塊を形成してしまいます (図3)。このクリスタリンタンパクの変性及び凝集塊形成によって水晶体が白濁するのです。

水晶体が白濁するメカニズムの図

白内障の治療にはどんなものがあるの?

白内障は、進行すると視野が徐々に障害されてしまう病気ですが、手術によって人工レンズを眼内の白濁したレンズと置換することで基本的には治療することができ、元の視野に回復することが可能です。基本的にはこの手術による治療が唯一の治療となります。

そして、お薬については進行を抑制する薬物療法として用いられるピレノキシン点眼液があります。こちらは、水晶体が白濁する速度を弱める目的で使用するため、白内障の病態初期に用いられます。あくまで白内障の進行速度を弱める目的であるため、一度白濁してしまった水晶体は薬物治療では元に戻すことはできません。

白内障の進行を抑制するピレノキシン点眼液とは?

では、白内障の治療薬として使われている「ピレノキシン」について紹介していきましょう。

ピレノキシンは、初期老人性白内障の患者に処方される目薬です。医療用医薬品であるため、医師の処方箋が必要となります。利用法、保管方法については医師・薬剤師の指示に従って行う事が前提ですが、ここでは一般的に通常用いられている保存方法を説明いたします。

この点眼液は粉末と溶解液に分かれていて、その2つを混ぜて使用するのが特徴です。使用前には容器をよく振り、内部の薬剤をよく混ぜます。点眼時には容器の先端が目に直接触れないよう注意が必要です。

溶解後に保管する時は冷暗所で容器を上向きにして薬をしまい、5週間以内に使用するようにしましょう。

ピレノキシン点眼液を使用すると、水晶体の白濁の原因であるキノイド物質の作用を阻害し、水晶体の透明性を維持させることで白内障の進行を抑制するとされています。ただし、上述したように治療薬が有効なのは病態初期に限られ、効果も「症状の進行抑制」までにとどまります。白濁した水晶体を治すには手術が必要です。

できる限り、白内障にならないためには?

視野が障害されて来たとしても、手術でそのほとんどが治療できる白内障ですが、できることなら病気にはなりたくないものですよね。そこで、白内障を予防するために重要と言われている事項について記載します 。

1.糖尿病などの生活習慣病を避ける。

先述の通り、糖尿病などの生活習慣病は白内障の病態進行を早め、若くして白内障が進行しやすくなるといわれています。普段から食生活・運動に留意して生活習慣病の予防に努めることが白内障予防には大切です。

2.強い赤外線や紫外線を避ける。

強い赤外線や紫外線はともに白内障を発症する危険因子です。強い赤外線を浴びる環境にある人とは、ガラス職人や溶鉱炉で働く人などです。したがって、一般の方が最も注意しなければならないのが紫外線です。サングラスやつばの広い帽子をかぶり、日中の紫外線から目を守ることで対処しましょう。

白内障治療や予防ができるお薬の研究が望まれる

高齢化の一途を辿る日本では、今後は白内障の患者が増加することが予想されています。

今のところ白内障は手術でしか治すことができませんが、最新の基礎研究では、白濁した水晶体を元に戻す作用を持つ物質の研究・開発が進んでいます。まだ研究段階ではありますが、今後は白内障の治療に新たな選択肢が増えるかもしれません。

さらには、白内障の予防にも繋がる薬の研究も望まれますね。

 

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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【画像】
Dragon Images / Shutterstock

この記事を書いた人

原 英彰

薬学博士/薬剤師

岐阜薬科大学学長。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っています。

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