
目の最前部で重要な働きをしている角膜。ケガや病気などで角膜の機能を失い、悩みを抱えている方が多くいらっしゃいます。その方たちの助けになりたいと日々新たな治療法が研究中です。今回は角膜に関する最新の治療法をご紹介いたします。
世界中に1200万人以上といわれる角膜障害による失明者
角膜は目の最前面に位置し、光を集めて網膜に焦点を合わせる重要な役割を担います。
しかし、角膜がケガや病気により透明性や機能を失うと視力が低下し、重度の場合は失明する可能性があります。
従来の治療法としては角膜移植が一般的ですが、世界的にドナーが不足していることや他人の組織を移植するため拒絶反応が起こるといった問題があります。
ケガや病気などで角膜の機能を失い失明している人は世界中に1200万人以上いると推測されていて、ほとんどの方が適切な治療を受けられていないのが現状です。
そこで、注目されているのがiPS細胞を用いた治療です。
iPS細胞から作成した角膜上皮細胞シートを移植する世界初の臨床研究
大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授(眼科学)らのグループは、ヒトの人口多能性幹細胞(iPS細胞)から作成した他家角膜上皮細胞シートを角膜上皮幹細胞疲弊症の患者に移植する臨床研究を行いました。この研究はFirst-in-Human(ヒトに初めて投与することを意味する)と呼ばれる研究です。
臨床研究で行った治験の結果、全4例で腫瘍形成や拒絶反応といった問題が発生せず安全性が確認されました。また、全例で角膜上皮幹細胞疲弊症の病気の改善・矯正視力の改善・角膜混濁の減少が認められたそうです。
この研究成果は英国科学誌「Lancet]に論文として発表されました。
角膜を迂回して光を網膜に届ける技術
上記の研究は素晴らしいものですが、角膜の病気で困っている全ての人が対象となるわけではありません。そこで、XpancenとIntraーKerの研究チームは、角膜を治すという発想を転換し、角膜を迂回して網膜へ視覚情報だけを届けるショートカット型の治療デバイスを開発することにしました。
どのような技術かというと、まず外部のスマートグラスに内蔵されたカメラが目の前の景色をリアルタイムで撮影し、その映像をワイヤレスで眼の中に埋め込んだ極小のディスプレイに送ることで、角膜を通さず直接網膜に映像を送ることができるというものです。
現状では、テレビやスマートフォンほどの画素数はないそうですが、大きな文字や人の輪郭、障害物の位置などが把握できる程度の見え方だということです。
まだ臨床試験は実施されていませんが、液体中やドナー角膜を用いた実験では比較的鮮明な映像を網膜へ投影することができているそうです。
終わりに
今回紹介した2つの技術が実用化されるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。
iPS細胞を作るためにはかなりのコストがかかることや、移植後の長期的な安全性データの蓄積が必要なことなど。
角膜を迂回して映像を届けるデバイスは、まだ臨床試験が行われていないことやさらなる小型化が必要なことなど解決しないといけない問題がたくさんあります。
そうなるとしばらくは角膜移植が重要な治療法となります。
目の愛護月間をきっかけに角膜移植について考えてみるのはいかがでしょうか。
角膜移植について詳しくはこちら
https://j-eyebank.or.jp/
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