
目の網膜に「金」を注入し「レーザー」をあてるという技術を用いた網膜の病気の治療法が、新たに研究されています。アメリカの大学の研究チームが発見した見えづらくなった人の視力を回復できる可能性がある研究をご紹介いたします。
日常生活に影響を及ぼす網膜の病気とは
網膜は視覚を司る重要な部分であり、加齢や病気によって視細胞が損傷すると、視力低下や視野障害などが起こり、場合によっては失明する可能性があります。
失明原因として多いものに網膜色素変性と黄斑変性があります。
網膜色素変性
目の奥にある網膜に何かしらの異変が起こる進行性の病気です。日本では4,000人から8,000人に1人発症するといわれており、視力低下に加えて見える範囲が狭くなる視野欠損や、暗い場所で見えにくくなる夜盲症が主な症状です。
黄斑変性
網膜の中心部でものを見るときに最も重要となる黄斑の働きが加齢などにより悪くなる(変性する)進行性の病気です。視野の中心部が歪んだり、暗く見えたり、欠けて見えるため見たいところが見えづらくなります。
どちらの病気も症状が進行すると、運転免許の更新ができない、本やテレビ・スマートフォンの画面が見えない、人の顔を認識できないなど、日常生活に大きな影響が出る可能性があり、重度の場合は失明に至ることもあります。
しかも、視力を回復させるのは難しく、世界中で治療法の研究が行なわれています。
今回はその中の一つ、アメリカ・ブラウン大学の研究チームが提案した「金ナノ粒子」を網膜に注入し、「近赤外線レーザー」で刺激することで視力を回復させるという研究を紹介します。
金ナノ粒子と近赤外線レーザーを用いた視力を回復する方法とは
研究チームが注目したのは、金の粒子が光や熱にとても敏感で、近赤外線レーザーを受けるとわずかに熱を出すところです。
そこで、金のナノ粒子を網膜に注入し、そこに近赤外線レーザーを当てることで出たわずかな熱が網膜の光受容体の次にある神経細胞(双極細胞や神経節細胞)を活性化させることで視力が回復するのではないかと考え、マウスでの研究が始まりました。
マウスで部分的な視力回復を確認
マウスを使った研究では、網膜変性のモデルマウスの網膜に金ナノ粒子を注入し、その眼に近赤外線レーザーを照射しました。
そしてマウスの脳活動を計測したところ、レーザー照射時に明確な神経反応が観察されました。これは、視覚情報が脳に届いている証拠であり、マウスが見るという機能を部分的に取り戻したことを意味しているそうです。
終わりに
マウスでの研究では、炎症や毒性といった有害な副作用は確認されませんでした。
安全性と持続性の両方で優れた結果が示されたことから、人に応用できる治療法として注目を集めているようです。
人への臨床試験へと進むにはさらなる研究が必要ですが、最新の科学技術によって私と同じ網膜色素変性や黄斑変性の病気などでほとんど見えなくなってしまった人たちの視力が回復できる未来もすぐそこまで来ています。
引用URL
ナゾロジー
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/176186