私たちの生活が豊かになった一因として、現代社会におけるパソコンやスマートフォンの普及が挙げられます。これらの電子機器に欠かせないのがLED (light emitting diode)です。
今は多くの液晶ディスプレイにこのLEDが備わっています。その一方で、LEDから発せられる光が原因と考えられる不調を訴える人も増えてきました。
その中で、世の中にはブルーライトは「目に悪い」という説と「問題がない」という説のどちらもが存在します。実際のところどうなのでしょうか?
今回の記事では、ブルーライトは善なのか悪なのか、私たちが行なった研究結果を交えてご紹介します。
原 英彰(はら ひであき)教授
薬学博士/薬剤師
岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行なっている。
目次
ものが見えるしくみ
私たちが「ものを見る」ためには光が必要になります。
光が目の網膜にある視細胞に到達すると電気信号に変換されて、脳に情報が伝達されることで「ものを見る」ことができます。
光は波長の違いによって目に映る色が変わります。波長が長いと赤色に、波長が短いと青色に見え、さらに波長の短い光はエネルギーレベルが大きく、目に影響を与える可能性があります(図1)[1]。
目に見える光(可視光線)の中で、波長が380nm~460nmの光を「ブルーライト」と呼びます。
ブルーライトは「目に悪い」?これまでの研究ニュースを整理!
ブルーライトは、可視光線の中でも波長が短く、エネルギーの大きい光とされていますが、目の角膜や水晶体で吸収されないため、網膜まで到達しやすい性質があります(図2)。
ブルーライトは私たちの生活を豊かにしました。例えば、蛍光灯がLEDライトに変わったことでより長持ちするようになり、電気代も安くなりました。さらに、LEDはスマートフォンやパソコンの液晶画面のバックライトにも使われています。
私たちがスマートフォンやパソコンを全く使わずに1日を過ごすことはほとんどありませんから、こういった面でも恩恵を受けています。
一方で、健康に対しては良くない影響を及ぼしているとされています。特に、光に最もさらされている目で不調が起きやすいとされています。
以下に2つの例を示します。
①眼精疲労
眼精疲労は目を使い続けることによる目の痛み・かすみといった症状や頭痛・肩こりといった全身性の症状が現れ、休息をとっても回復しない状態のことをいいます。
眼精疲労について掲載されている記事はこちら
▼眼精疲労って病気なの?目薬って効くの? お薬専門家原英彰教授が眼精疲労の症状や治療薬について解説
デスクワークをする人が増えたことやスマートフォンの使用率の上昇とともに眼精疲労を訴える人が多くなっています。この原因として、ブルーライトの散乱の影響が挙げられます。
波長の短い青色の光は、空気中のちりやほこりとぶつかって散乱しやすいという特徴があります。散乱しがちな青い光(ブルーライト)を含んだ光の映像にピントを合わせようとしたり、光が強いので瞳孔を縮めようとして目の筋肉を使いすぎたりすることで目の疲労につながります[1]。
最近の研究では、ブルーライトの曝露によって眼精疲労が引き起こされた際にブルーライトカットレンズを使用すると、クリアレンズと比較して眼精疲労を緩和できる可能性が示されました[2]。
②加齢黄斑変性
加齢黄斑変性のリスクとして目に対する光の曝露があります[3,4]。光を浴びた網膜の視細胞は酸化ストレスを発生するようになり、これが細胞にダメージを与えます[5]。
また、眼内の老廃物(網膜に蓄積する脂質)の除去や栄養伝達に重要な網膜色素上皮と呼ばれる細胞でも活性酸素や炎症性物質が発生してしまいます[6]。これらの要因によって加齢黄斑変性が進行するとされています。
ただし、日常の中で浴びているブルーライトの量ですぐさま眼病や視力低下につながるかについては、まだまだ意見が分かれています。そのため、私たちの研究室では実際に確かめるために様々な研究を行なっています。
ブルーライトは目に悪い!?実際に研究してみた!
目にとって「悪い」のか、「そうでもない」
のか意見が分かれているブルーライトやLED。私たちの研究室でもこれまでに青色LEDに関する研究を数多く行ってきました。
光を受け取る網膜の細胞に同じエネルギー量の青色LED、白色LEDそして緑色LEDをあて、細胞にダメージが起きるかの検証を行いました。
すると、緑色LEDではダメージが起きなかったのに対し、青色LEDと白色LEDでは細胞にダメージが起こりました[5]。
緑色LEDには青色光の波長は含まれていませんが、青色LED及び白色LEDには青色光の波長が含まれています。白色LEDは青色ではないから安全だと考えるのは危険です。
また、青色LEDによる目へのダメージは動物実験レベルでも明らかになっており、青色LEDを浴びたマウスは視機能が低下していました[7](図3)。やはり、目の細胞に何かしらの影響を与える可能性があるようです。
どうすれば防げる!?ブルーライトから目を守る方法を調べてみた!
次に私たちは、ブルーライトを含む青色の光によるダメージを抑える方法の探索を行いました。まずは有色レンズです。
ブルーライトカットレンズが良いという話を聞いたことはあるでしょうか。何色のレンズが青色光によるダメージを抑えられるのかを調べたところ、研究結果から黄色のレンズが最もよいことがわかりました。
また、先程細胞にダメージを与えるといった活性酸素の放出量も黄色のレンズによって抑制されました[8]。
次に健康食品です。
青色光によって細胞にダメージを与える活性酸素が産生されることが知られています。健康食品の中にはこの活性酸素をおさえるものが多くあります。
ブルーベリーやビルベリーのようなベリー類は細胞レベルではありますが視細胞のダメージを抑制することができました[9,10](図4)。
研究のレベルでは、ブルーライトが目の細胞に影響を与えたり、そのダメージをビルベリーエキスが軽減することが示されています。
ブルーライトから身を守るには
現段階ではブルーライトの研究は始まったばかりです。
しかし、影響を与える可能性がある以上、ブルーライトから目を守った方が良いでしょう。ではどうすればよいのでしょうか。
まずはブルーライトカット作用のあるレンズが入った眼鏡を利用することです。前述のようにブルーライトカットレンズが入った眼鏡は眼精疲労を抑制し、また眼内に到達するブルーライトの量を抑えるので網膜のダメージを抑制することにつながります。
次に食生活です。網膜には光を受け取る細胞が豊富に存在する黄斑と呼ばれる部位があります。ここには、ブルーライトに対してフィルター効果がある「ルテイン」という色素が豊富に存在しています[11]。
この豊富なルテインがブルーライトにより生じる活性酸素を抑制する働きを持つとされています(図5)。
アメリカで行われた加齢黄斑変性に関するAREDS2と呼ばれる研究でルテインが加齢黄斑変性の予防と進行抑制に効果がある可能性が示されました[12]。
ホウレンソウやケールのようなルテインが豊富に含まれる食品を意識して摂取するなど、食生活の改善がブルーライトから目を守るために重要です。
目に良い光はあるの?ほかの研究について教えて!
これまでにブルーライトに関するお話をしました。それでは、ほかの色の光が目に及ぼす影響についてはどうでしょうか。
最近の研究で、赤色の光が目に良い可能性が明らかになってきています。ブルーライトは波長が短く、エネルギーが大きい光である一方、赤色光は波長が長くエネルギーが小さい光であることが知られています。
この赤色光を照射すると、40歳以上の人でコントラスト感度と、暗い場所での光の感度を改善するという研究報告がされました[13]。
また、私たちも赤色の光が有用である可能性を示す研究を行なっています。網膜の老廃物の除去にかかわる網膜色素上皮細胞に酸化ストレスが加わると、脈絡膜から酸素や栄養を取り入れ老廃物を脈絡膜に戻す能力が低下します。
この細胞に赤色光を照射するとその能力の低下が抑えられることを明らかにしました[14]。これらの研究から、赤色光が目に良い可能性が示されました。
しかしながら、これらはまだ研究段階にあり、安全性が十分に確保されているわけではありませんので、安易に目に当てることは絶対に控えてください。
最後に
ブルーライトは研究レベルでは目の細胞や組織に影響を与えることが分かりました。こういった光は私たちがものを見るうえで大切なものです。ただし、その光に過剰にさらされると弊害になることがあります。
現在は悪影響を与える“可能性がある”というものですが、可能性として挙げられている加齢黄斑変性や眼精疲労は、完治させる医薬品があるわけではありません。
さらに私たちの生活に欠かせなくなったパソコンやスマートフォンはLEDやブルーライトなしでは作ることができません。
これらを完全に取り除くことは難しいので、ブルーライトとうまく付き合い、気になる症状が出た際には早めに眼科医に相談し適切な処置を行うことが豊かな生活を送るために必要になるでしょう。
【参考】
1.ブルーライト研究会HP
http://blue-light.biz/
2.Ide T et al. Asia Pac J Ophthalmol (Phila)., 2015
3.メノコト365『滲出型加齢黄斑変性』
https://menokoto365.jp/2002/
4.メノコト365『萎縮型加齢黄斑変性』
https://menokoto365.jp/2074/
5.Kuse Y et al. Sci Rep., 2014
6.Narimatsu T et al. Exp. Eye Res., 2015
7.Nakamura M et al. Biol Pharm Bull., 2017
8.Hiromoto K et al. J. Biomed., Opt. 2016
9.Ogawa K et al. BMC Complementary and Alternative Medicine., 2014
10.Ooe E et al. Molecular Vision., 2018
11.Nolan J. M.et al. Ophthalmic Res., 2010
12.Age-Related Eye Disease Study Research Group. JAMA., 2013.
13.Harpreet Shinhmar et al. The Journals of Gerontology: Series A. 2020
14.Fuma S et al. Molecular Vision 2015
【画像】
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