目の症状や病気と予防・治療法

【専門家が教える】左右の眼で見え方に違いがあれば「滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性」の可能性も!? それってどんな病気なの?原因や治療方法を教えて!

中心暗点の様子

皆さんは加齢黄斑変性という病気を聞いたことがありますか?一般にはなじみの薄い病名かもしれませんが、実は欧米で中途失明原因の第1位、日本でも第4位を占めるほど患者さんの数が多い病気です (※1)。

高齢化に伴い、日本での患者数は着実に増加しています。1998年に福岡県久山町で行われた調査(Hisayama Study) では、50歳以上の住民の0.87%に加齢黄斑変性がみられました。しかし、その9年後に行われた再調査では、発症割合が1.3%にまで上昇したのです。この結果から日本人全体の患者数を推定すると、9年間で約37万人から69万人に増えていることになります (※2)。

この病気は症状の現れ方によって“滲出型(しんしゅつがた)”と“萎縮型(いしゅくがた)”という二種類の病型に分類されます。日本の加齢黄斑変性患者の9割以上は“滲出型”です。今回は日本人に多い滲出型加齢黄斑変性について、どんな病気なのか、治療方法はあるのか、さらに最新の治療薬にも触れながら解説してみましょう。


原 英彰(はら ひであき)教授
薬学博士/薬剤師
岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っている。


 

滲出型加齢黄斑変性ってどんな病気?

年齢を重ねると体のいたるところに不調が現れるように、眼の中もダメージを受けます。加齢黄斑変性はその名のとおり、年齢を重ねるほど発症しやすくなる病気です。先に紹介したHisayama Studyの結果から、50歳以上の80人に1人が加齢黄斑変性を罹患していることがわかりました。では、年齢を重ねると眼の中でどんなことが起こるのでしょうか?

眼は脳とつながっている神経のひとつで、大変精密にできています。ヒトの眼は直径23㎜程度の球体で、10円玉と同じくらいの大きさです。膜状の構造が何層にも重なっており、それぞれが違うはたらきをすることで、私たちはモノを見ています。

眼の一番奥には「網膜」と呼ばれる層があります (図1)。網膜は視細胞や神経細胞がたくさん存在しています。

網膜には光を感じる視細胞があり、視細胞が感じた刺激が脳へ伝わると目が見えることを認識します。視細胞は活動が非常に活発な細胞であるため、網膜の中心に位置し視細胞が密集する黄斑は特に多くの酸素やエネルギーを必要とします

網膜の外側には血管が存在する「脈絡膜」という膜があります (図1)。脈絡膜血管からは、視細胞や視細胞の土台となる網膜色素上皮細胞へ酸素や栄養素が送られます。網膜色素上皮細胞は、脈絡膜血管から視細胞への酸素や栄養の橋渡しをしています。また、古くなった視細胞を除去し、網膜下にゴミが溜まらないようにする働きもあります。

しかし、年齢を重ねることによって脈絡膜血管や網膜色素上皮が正常に機能しなくなると、視細胞への栄養供給を補うために、脈絡膜から網膜に向かって不安定な異常血管が伸びていきます (図1)。伸びてきた異常血管はもろく破れやすいため、網膜で血漿(けっしょう)成分の滲出や出血が起こることがあります。これが、滲出型黄斑変性です。

このように、滲出型加齢黄斑変性では黄斑の脈絡膜から異常血管が生じることで視覚障害が現れます。網膜で発生する異常な新しい血管のことを「新生血管」といい、新しい血管が発生する現象のことを「血管新生」といいます。

目の構造と滲出型加齢黄斑

滲出型加齢黄斑変性を発症した時の見え方

私たちはモノを見る時、眼の中に入ってきた光は網膜で光の情報として受け取り、網膜の視細胞で電気信号に変換します。変換された電気信号を、視神経を通して脳に送ることで、モノとして認識します。網膜の中心部分が黄斑であり、モノを見る時に大切な部分です。

黄斑は網膜の中心にあたる部位で、私たちの見える範囲(視野)の中心部になります。そのため、黄斑付近で異常血管が生じる加齢黄斑変性では、視野の中心部から症状が現れます。

加齢黄斑変性の発症初期には視野の中心部がゆがんで見えます。さらに黄斑のダメージが進行すると真ん中が見えなくなり、視力が低下します (図2)。最終的には、失明に至ることもあります

 黄斑変性は発見が遅れることがあります眼は2つあるため、片方の眼に黄斑変性の症状が出ていても、もう片方の眼はきちんと見えているので、ご本人がなかなか不調に気付きにくいためです。定期的に眼科検診を受けるなど、早期発見に努めていただきたいです。

視力低下の速さには個人差がありますが、加齢黄斑変性のもう一方の病型である” 萎縮型”と比べて” 滲出型”は進行が速く、重症な場合が多いです。特に、異常な新生血管から大量に出血した場合、急激に視力低下が起こることがあります (※1)。

加齢黄斑の症状

発症原因は様々?生活習慣に潜む加齢黄斑変性のリスク

加齢黄斑変性は多様な原因が積み重なった結果発症する病気です。原因は遺伝要因と環境要因の二種類に分けられます (図3)。

遺伝要因とは、ヒトが生まれつき持っている遺伝子の違いに起因するものです。私たちの体は遺伝子によって設計されており、個人が持っている遺伝子が異なるため背丈や顔の形、肌の色に違いが出ます。同様に病気の罹りやすさも個人が持っている遺伝子によって変わってきます。

2000年代になってから加齢黄斑変性の発症に関係する遺伝子の異常が多数発見されています。加齢黄斑変性の発症に関わる代表的な遺伝子としてARMS2/HTRA1という遺伝子が知られています。この遺伝子の変異は “滲出型”の発症に関わるとされており、特に日本人を含むアジア系の人種が多く持っています (※3、4)。このような遺伝要因が日本人の“滲出型”加齢黄斑変性の発症率が高いことに関わっていると考えられます。

一方、環境要因は食習慣や生活環境に潜むものです。最も有名な環境要因は喫煙です。日本では加齢黄斑変性の患者の男女比は3:1と、男性の方が多いのですが、これは喫煙歴の男女差が一因となっています (※5)。

さらに、パソコンやスマートフォンの画面が発するブルーライト、野菜不足や脂質の取りすぎなどの食事の偏り、運動不足、感染症や糖尿病などの基礎疾患の有無も環境要因に含まれます。

加齢黄斑の原因

滲出型加齢黄斑変性の治療方法はあるの?最新の治療薬について解説

滲出型加齢黄斑変性の治療で一般的に用いられている方法と、最新の治療薬について紹介します。現在、滲出型加齢黄斑変性の主な治療法には①血管新生を促す因子の働きを抑える薬を使った治療法と (抗VEGF療法) ②レーザー光線で異常血管を閉じさせる治療法 (光線力学療法) の二種類があります。

血管新生を促す因子の働きを抑える治療法

抗VEGF治療のイメージ

滲出型加齢黄斑変性の患者さんの眼の中では、血管新生を促す因子が過剰に存在します。このような因子の中で最も有名なものが血管内皮細胞増殖因子 (VEGF: Vascular Endothelial Growth Factor) です。

VEGFは血管を構成する細胞にはたらきかけることで血管を伸長させます。正常な血管を作る際にもVEGFが必要なのですが、過剰量のVEGFがはたらくと、本来必要のない異常血管が作られてしまいます。異常血管は正常な血管に比べて弱いため、黄斑で出血するリスクが高くなります。

また、VEGFは異常血管を増やすだけでなく血管を構成する細胞同士の接着を緩め、血管の透過性を高める作用も有します。血管の透過性が高まると、血液に含まれる水分が黄斑に漏れ出て、余分な水分が溜まってしまいます。このように黄斑に水分が溜まった状態を“黄斑浮腫”といい、黄斑の視細胞が圧迫されるため視力が著しく低下します。

そこで、患者さんの眼内に過剰に存在するVEGFを取り壊す薬剤 (抗VEGF薬) を使うことで、異常血管が広がらないようにしたり黄斑に水分が溜まることを防ぐ治療が行われます。この治療方法のことを抗VEGF療法といいます。現在、ラニビズマブ (ルセンティス®) とアフリベルセプト (アイリーア®) の二種類の抗VEGF薬が頻繁に用いられます。どちらの薬剤も注射で眼内に直接注射する薬です (※6)。

さらに、2019年に米国で承認を受け、2020年5月に本邦でも販売を開始した抗VEGF薬としてブロルシズマブ (ベオビュ®) が用いられ始めています。ベオビュの特徴として、従来の抗VEGF薬に比べて投与間隔を延長しても、既存薬と同程度の治療効果を示す可能性があります。そのため、患者さんが治療を受ける頻度をこれまでよりも減らすことができ、「通院や治療の負担」の軽減につながることが期待されています (※7)。ただし、既存薬に比べてまだ使用実績が少ないため、今後の動向に注目する必要があります。

異常血管を閉じさせる治療法 (光線力学療法)

ベルテポルフィン (ビスダイン®) という光に反応する薬剤を点滴し、非常に弱いエネルギーのレーザーを病変部にあてることで異常血管を閉じさせる治療法です。異常血管を閉じることで、新たな異常血管の発生や黄斑浮腫の発生を防ぐことができます。この治療法は抗VEGF療法の単独治療で効果が得られない場合に、補助療法として用いられることが多いです。治療のためには専用のレーザー装置が必要であり、特定の医療機関でのみ治療を受けることができます。

新しい治療法はできるの?最新の研究内容について紹介

多くの患者さんで抗VEGF薬が一定の効果を示す一方、中には既存の抗VEGF薬での治療法のみでは十分な治療効果を得られない患者さんもいます。また、薬剤の費用が比較的高価 (約10-15万円) であることも課題です。そこで、より良い薬剤の開発を目指して、より多くの患者さんの治療効果を高めるために現在行われている最新の研究について紹介します。

iPS細胞を用いた再生医療の研究

2012年に山中伸弥先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで有名になったiPS細胞は、様々な種類の組織や臓器を作り出すことができる細胞で、多くの難病治療に応用されることが期待されています。滲出型加齢黄斑変性に対してもiPS細胞から作り出した網膜色素上皮を患者さんに移植する治療法が開発されつつあります。近い将来、視力を失った患者さんに再び光がさす時代が訪れるかもしれません。

VEGFに代わる新たな治療ターゲットの探索

現在、世界中の多くの眼科研究者がVEGFに代わる新たなターゲットを探索する研究を行っています。その一例として、我々の研究室が注目しているターゲットであるHB-EGF (Heparin-Binding EGF-like Growth Factor) の研究について紹介します。HB-EGFは、VEGFと同様に血管を構成する細胞に作用することで血管新生に関わる因子です。一方、HB-EGFはVEGFと異なる経路で細胞に作用するため今後、抗VEGF療法で十分な効果が得られない患者さんの新たな希望につながる可能性があります。

我々の研究室では、網膜のHB-EGFが発現しない遺伝子改変マウスを用いた実験で、眼内のHB-EGFのはたらきを抑えることで血管新生が起こりにくくなることを発見しました。さらにサルの一種であるコモンマーモセットを用いた実験でも、同様にHB-EGFの阻害薬が眼内の血管新生を抑制することを確認しました (※8)。これらの結果から、HB-EGFのはたらきを抑えることで抗VEGF療法とは異なる方法で滲出型加齢黄斑変性の血管新生を抑えられる可能性が期待できます。

現在、我々はHB-EGFのはたらきを抑える薬の開発に着手しています。抗HB-EGF療法が抗VEGF療法に加えて、滲出型加齢黄斑変性の新たな治療の選択肢になることを期待し、今後も研究を進めていきたいと思っています。

早期発見と日々の予防が大切!滲出型加齢黄斑変性に対する心構え

滲出型加齢黄斑変性は、ある程度年齢を重ねると誰にでも発症する可能性のある病気です。ただし、日々の生活の中で禁煙や規則的な生活習慣を行うことで、十分な予防効果が期待できます。

黄斑変性を防ぐには、たばこや紫外線を避けることに加えて、日々の食習慣が重要です。アメリカの大規模臨床試験(AREDS2)では、ルテインとゼアキサンチン、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化ビタミン。さらには亜鉛などのミネラルが、加齢黄斑変性のリスクを抑えたという結果が得られました。そのため、日常の食生活でも、ルテインやゼアキサンチンといったカロテノイド色素を含む緑黄色野菜や、亜鉛を含む貝類、レバー類。ビタミンEが豊富なナッツ類などを取り入れましょう。

▼ルテインが摂れるレシピはこちら
お子さんのスマホの使いすぎが気になるときにルテイン!手作りおやつ「野菜のカップケーキ」レシピ
ブルーライトのダメージから目を守る!ルテインが摂れる「ほうれん草のキッシュ」レシピ

また、加齢黄斑変性はセルフチェックで違和感に気づくこともできます。片眼をふさいでものを見た時に、見たいものがゆがんで見える、見づらい、欠けているなど異変を感じたら眼科で検査を受けましょう。碁盤のようなマス目が描かれたシート(アムスラーチャート)を使ってセルフチェックすると、さらにわかりやすいです。必ず片眼ずつでチェックし、異常があれば早めに眼科を受診して精密検査を受けましょう。

▼セルフチェックについて詳しくはこちら
「ゆがんで見える」「見たいところが見えない」加齢黄斑変性はセルフチェックで早期発見を!

また、仮に病気が発症してしまった場合でも、早期に治療を開始することで視力を維持できる可能性が高くなります。見え方に違和感を覚えたら、ためらわずにできるだけ早く眼科を受診しましょう。

 

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考文献】
※1. 日本眼科学会 HP http://www.nichigan.or.jp/index.jsp
※2. 難病情報センター HP https://www.nanbyou.or.jp/entry/2434
※3. Kondo N et al. Am J Ophthalmol. 2007
※4. Hua Jiang et al. Retina. 2009
※5. Tamakoshi A et al. Br J Ophthalmol. 1997
※6. Eye Physicians and Surgeons of Ontario HP https://www.epso.ca/
※7.ノバルティスファーマ HP https://www.novartis.co.jp/
※8.Inoue Y et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2018

この記事が役に立った・ためになったと思った方は、
ありがとうボタンをお願いします!

この記事を書いた人

原 英彰

薬学博士/薬剤師

岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っています。

こちらの記事もおすすめ