目の症状や病気と予防・治療法

【専門家が教える】薬がないってホント?萎縮(いしゅく)型加齢黄斑変性研究の最前線とは

化学式と医師を表す写真

年齢とともに黄斑がダメージを受け、視力の低下や失明につながる可能性のある「加齢黄斑変性」。欧米では失明原因の第1位であり、日本でも患者数が増加傾向にある目の病気です。

前回は、日本人の加齢黄斑変性患者の9割を占める、滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性について、治療法と最新研究情報を紹介しました。今回はもう一つの病型である萎縮型加齢黄斑変性について解説をしていきます。


原 英彰(はら ひであき)教授
薬学博士/薬剤師
岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行なっている。


日本では滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性を発症する患者が圧倒的に多いのですが、世界に目を向けると萎縮型加齢黄斑変性の患者の割合が高いことが知られており、その割合は日本とは反対で、萎縮型加齢黄斑変性の患者がおよそ9割を占めるとされています[1,2]。

アメリカの加齢黄斑変性の患者数から、萎縮型加齢黄斑変性の患者は1300万人ほどと推察されています。食生活の欧米化などにより、日本でも萎縮型患者の割合が増加すると考えられており、今後注意が必要な病気の一つです。

萎縮型加齢黄斑変性ってどんな病気?

滲出型加齢黄斑変性と同様に萎縮型加齢黄斑変性も、ものを見るために重要な網膜の中心部に存在する黄斑にある視細胞がダメージを受けることで視野の一部が見えなくなり、最終的には失明に至ります。では、この2種類の加齢黄斑変性にはどのような違いがあるのでしょうか。

前回記事で紹介したように、滲出型は目の中に異常な血管ができることが主な症状です。これに対し、萎縮型は網膜色素上皮の機能低下が原因とされています[3]。網膜色素上皮は目の中で生じた老廃物を取り除く掃除屋の役割を果たしています(図1)。

目の構造と網膜色素上皮のはたらき

▼滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性」について詳しく知りたい方はこちら
左右の眼で見え方に違いがあれば「滲出型加齢黄斑変性」の可能性も!?それってどんな病気なの?原因や治療方法を教えて!

この掃除屋が正常に働くことができなくなってしまうと老廃物がたまり続けて” ドルーゼン”と呼ばれる蓄積物が出来上がります。このドルーゼンが網膜へのダメージの原因の一つとされています(図2)。

また、網膜色素上皮は脈絡膜からの栄養や酸素を網膜へ送る仲介役としての働きも持っていますので、網膜色素上皮の機能が低下してしまうと網膜へ十分な栄養が届かなくなります[4]。これらの要因が複合的にあわさることによって網膜の機能がだんだんと低下していき、最悪の場合失明に至ります。

萎縮型加齢黄斑変性に伴う黄斑の変化

萎縮型加齢黄斑変性の予防

滲出型加齢黄斑変性に対しては血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とした医薬品や光線力学療法といった治療法があることを紹介しました。しかし、萎縮型加齢黄斑変性に関しては、これまで多くの医薬品候補が開発されてきましたが、残念ながら承認には至っていません。つまり、萎縮型加齢黄斑変性は、特に予防が重要なのです。ここでは萎縮型加齢黄斑変性のリスクになりうる要因とその対処法を紹介していきます(図3)。

喫煙

加齢黄斑変性は様々な遺伝要因と環境要因(喫煙、光の曝露、食生活など)が複合的に関与し発症します。その中でも喫煙が最も重要なリスクファクターとして知られていて、喫煙者は非喫煙者と比べて萎縮型加齢黄斑変性の発症リスクが4倍程度高まることが知られています[5]。

喫煙によって細胞にダメージを与える活性酸素が大量に産生され、これが細胞に障害を与えることが病気の原因とされています。喫煙は萎縮型加齢黄斑変性だけでなく多くの疾患の発症リスクを高めることからも、禁煙を試みてはいかがでしょうか。

光の曝露

生活様式の変化に伴い、電子機器類がどんどん発達してきています。近年の大きな進歩の一つとしてパソコンやスマートフォンの普及が挙げられます。しかし、パソコンやスマートフォンの普及により、今までより目が光にさらされる機会が多くなりました。

強い光を浴びたり、長時間光を浴びることも加齢黄斑変性のリスクになります。パソコンやスマートフォンを使用する際には適度な休憩を入れましょう。また、日光もリスクとなるので外に出る際にはサングラスをかけるなどの対策をすることをおすすめします。

食生活

肉や油を多く使う食事をとった高齢者では、加齢黄斑変性の発症リスクが高いことが知られています[6]。肉や油の多い食事から、魚や野菜を中心とした食生活に変化させるよう心がけましょう。

魚に多く含まれるDHAや緑黄色野菜に含まれるビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化ビタミン、またミネラルの亜鉛は萎縮型加齢黄斑変性の発症リスクを低下させることが明らかになっています[7]。栄養バランスを考えた食事を積極的にとるようにしましょう。

また近年、カロテノイドの一種であるルテインやゼアキサンチンが萎縮型加齢黄斑変性の予防効果を有する可能性も報告されており[8]、これらを含むサプリメントも販売されています。

萎縮型加齢黄斑変性のリスク要因

萎縮型加齢黄斑変性研究の現在

最後に萎縮型加齢黄斑変性研究の現状を紹介します。

加齢黄斑変性の進行抑制を目的とした研究

食生活の項目で紹介した抗酸化物質は、加齢性眼疾患研究 (Age-Related Eye Disease Study; AREDS) と呼ばれるアメリカで行われた臨床研究によってその有用性が明らかになりました[9]。AREDSの報告から、ドルーゼンがある患者さんに亜鉛、ビタミンC・E及びβ-カロテンを処方したところ、加齢黄斑変性の進行が遅延することが示されました

また、その後に行われたAREDS2によって、さらにルテインとゼアキサンチンも有用であることが明らかになりました[10]。このように、加齢黄斑変性の予防を目指すための研究も行われています。

補体を標的とした研究

補体とは体に侵入した細菌などを排除するための因子であり、補体の働きによって私たちの体は細菌から守られています。萎縮型加齢黄斑変性の患者さんでは補体が活性化し、これが網膜色素上皮に障害を与えるのではと考えられています。現在、海外の企業が、補体の活性化を抑える薬物を開発しており、臨床試験が行われています[11]。

iPS細胞を用いた研究

滲出型加齢黄斑変性や正常眼圧緑内障の記事でもお話ししましたが、萎縮型加齢黄斑変性に対してもiPS細胞を用いた研究が行われており、現在臨床研究が行われています[2]。これまで治療法のなかった萎縮型加齢黄斑変性ですが、近い将来新たな治療方法が生まれる可能性も期待できます。

また、私たちの研究室でも新たな萎縮型加齢黄斑変性の治療ターゲットを探索するための研究を行なっているので、成果の一部を紹介します。

酸化ストレス

萎縮型加齢黄斑変性のリスクファクターとして光の曝露とそれに伴って生じる酸化ストレスが知られています。光の曝露が網膜にダメージを与え、視機能の低下を引き起こすこと、また酸化ストレスを抑える化合物を投与することで、細胞障害や視機能の低下が抑制されることを明らかにしました[12,13]。

マクロファージ

体外から侵入した細菌を攻撃するための細胞であるマクロファージが、萎縮型加齢黄斑変性患者の眼内に集まることが知られています。このマクロファージから産生される因子が網膜にダメージを与える可能性があります。私たちはこのマクロファージが眼内に存在しないと網膜のダメージが抑制されることを明らかにしました[14]。

これらはまだ細胞や動物実験レベルの研究ですので今後さらなる研究を進めていきたいと思っています。

最新研究情報のイメージ図

最後に

萎縮型加齢黄斑変性症は誰にでも起こりうる病気です。有効な治療薬が存在しない現状ではいかに予防するかが大切ですので、日々健康的な生活を送るよう心がけましょう。

また、少しでもおかしいなと思ったら早期発見できるよう、積極的に眼科を受診することをおすすめします。

 

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考】
1 LINEAGE HP
https://lineagecell.com/
2 American Academy of Ophthalmology HP
https://www.aao.org/
3 ヘリオス HP
https://www.healios.co.jp/
4 Olaf Strauss. Physiol Rev. 2005
5 https://www.reviewofophthalmology.com/
6 Shruti Dighe et al. Br J Ophthalmol. 2020
7 ずっと見える情報局 HP
https://www.moumakushikkan.com/
8 Kamoshita M et al. Sci Rep. 2016
9 The Age-Related Eye Disease Study Research Group. Control Clin Trials. 1999
10 Age-Related Eye Disease Study Research Group. JAMA., 2013.
11 Healio HP
https://www.healio.com/
12 Nakamura M et al. Biol Pharm Bull. 2017
13 Kuse Y et al. Sci Rep. 2014
14 Moriguchi M et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2018

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この記事を書いた人

原 英彰

薬学博士/薬剤師

岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っています。

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