アントシアニンは、ブルーベリーやビルベリーなどに含まれるポリフェノールの一種です。目のサプリメントの原材料にも使われていることは、目の健康を意識している人なら知っているかもしれませんね。
アントシアニンには強い抗酸化作用があることが知られていますが、どんな効能があるのか正しく理解している人はどれくらいいるでしょう。そして、なぜ目のサプリメントに使われるのか、目以外の健康効果はどんなものがあるのかなど、知らないことが多いのではないでしょうか。
そこで今回は、アントシアニンの抗酸化力やその効果効能について、これまで研究されている内容やアントシアニンが目に良いといわれるきっかけとなった研究結果、目以外の領域での研究等を紹介します。
目次
アントシアニンってそもそもどんな成分?どんな効能があるの?
アントシアニンは抗酸化物質のひとつ
アントシアニンは青紫色の天然色素です。アントシアニンを含有する食べ物にはブルーベリーやぶどう、なすの皮などがあります。自然界には現在までに約500以上の種類が見つかっており、様々な種類のアントシアニンが存在しているようです。
抗酸化物質であるアントシアニンは、ポリフェノールの中でも近年注目されている物質のひとつです。
「抗酸化物質」って何?どんな効能があるの?
アントシアニンなどの抗酸化物質には、体の中で発生した活性酸素の働きを抑えたり除去したり、発生そのものを抑える力があるといわれています。
活性酸素が体の中で大量に生み出されると、がんや動脈硬化、免疫機能の低下などの病気の発症に関わるのではと懸念されています。アントシアニンの抗酸化作用(活性酸素の働きを抑える力)はこれらの病気の予防につながるのではないかと注目され、さかんに研究が行われています。
「アントシアニンは目にいい」のは嘘?ホント?「ロドプシン」との関係から考える
「アントシアニンは目にいい」と耳にしたことはあるでしょうか? こういわれている理由のひとつに、1968年に発表された研究論文があります(※1)。
この研究は、アントシアニンが網膜に存在するたんぱく質のロドプシンの再合成を促す作用があると示されたものです。
アントシアニンとロドプシンの関係を考える前に、まずものが見える仕組みを説明しましょう。
人の目の中にある網膜には光に反応する光受容細胞があり、ここに光が当たることで神経を通じて脳に信号が伝わり、ものが見えるという感覚を得られるといわれています。
ロドプシンとは、光受容細胞のうち暗いところで作用する桿体細胞(かんたいさいぼう)の中にある色素体です。ロドプシンは光の刺激を受けると分解され、それにともなって光の情報は脳に伝わる電気信号に変わります。その後、分解されたロドプシンは再合成されます。
▼ロドプシンとアントシアニンの関係をわかりやすく知りたい方はこちら
メノコトガイド「見える仕組みとアントシアニン」
ものが見える仕組みの中で、重要な役割を担うロドプシン。しかし、目を酷使してしまうと、ロドプシンの再合成が追いつかなくなってしまうことがあるようです。
例えば、暗いところで本を読む、パソコンなどの画面を長時間見ることで、目がかすむなどの状態になることがあります。これはロドプシンの再合成がうまくいかないことで、ものが見えづらい状態になっていることが一因といわれています。
先に紹介した1968年の論文では、分解されたロドプシンの再合成をアントシアニンが促進するかを検証した結果が報告されました。この論文をきっかけに、ロドプシンとアントシアニンの関係が注目されたことで、「アントシアニンは目にいい」といわれはじめたのかもしれませんね。
▼アントシアニンと目の関係については、こちらの記事でも紹介しています。
ブルーベリーが目に効果があるのは噓か本当か?根拠があるのか検証してみた!
視力回復・視力改善に効果があるって本当?
アントシアニンと視力の関係はどうでしょうか。視力回復や改善に効果はあるのか研究状況を調べてみました。
2016年に発表された岐阜薬科大学の紀要「ビルベリー由来アントシアニンが目に与える機能性」では、アントシアニンが含まれるビルベリーエキスを使ったマウスによる基礎実験やヒトによる臨床試験の結果がまとめられています。
ここでは、ビルベリーエキスを摂取する事による目の疲労感に対する改善や、目の疲労感と関係がある毛様体筋の緊張状態の緩和等、目の疲労と関連のある要素の改善効果についての研究論文が紹介されていますが、ヒトによる臨床試験の結果の総括として、以下のように考察されています。
「ビルベリーエキスとして 1 日 107 mg 以上、ビルベリー由来アントシアニンとして 40.0 mg 以上を日常的に摂取することで、VDT 作業による目の疲労感や毛様体筋の緊張状態、縮瞳率、近点視力、調節力が改善する可能性が示唆された」
※VDT作業:パソコンや監視カメラなどディスプレイを用いた作業
近点視力の改善の可能性には言及されていますが、現在は可能性を示唆されている段階のようですね。
これまでのアントシアニンと目の研究状況を調べましたが、まだ具体的に視力との関係が明らかになった研究結果は発表されていないようなので、今後の研究に期待したいといったところでしょうか。
紫外線に対するアントシアニンの効果を調べた研究はある?
紫外線に対するアントシアニンの効果について調べた研究については、岐阜薬科大学の研究チームが2013年に「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に掲載した論文があります(※2)。この中で、研究チームはマウスの網膜の細胞にアントシアニンを含むビルベリーエキスを加えたものと加えてないものを用意し、それぞれに紫外線をあてて比較しました。
わかさ生活の研究活動を紹介する「みらい研究所」では、この論文をもとに解説しています。ビルベリーエキスを加えた網膜細胞は、加えていないものより紫外線ダメージを抑える実験結果が得られたようで、アントシアニンを含むビルベリーエキスによって細胞の紫外線ダメージを抑えることが分かった、と説明されています。
紫外線との関係については、まだマウスの細胞を使った実験レベルなので、ヒトでの効果はこれからのようですね。今後ヒトでの研究が進むと、紫外線に対するアントシアンの有用性が明らかになってくる可能性もあるので、今後の研究の進捗について期待したいところです。
白内障に対するアントシアニンの効果を調べた研究はある?
白内障に対するアントシアニンの効果について調べた研究については、鳥取大学の河田康志教授らが2015年の日本生化学大会にてポスター発表された「アントシアニンによるαクリスタリン蛋白質の凝集抑制」があります(※3)。
わかさ生活の「みらい研究所」によると、この研究は、アントシアニンを含むビルベリーエキスがクリスタリンの凝集を抑える効果を調べたものと紹介されています。白内障の原因の1つに、水晶体にあるクリスタリンたんぱく質の凝集があるのですが、この実験では、実験環境においてアントシアニンがクリスタリンの凝集を抑制することで、白内障の予防につながる可能性があると解説されています。
まだ白内障の予防につながる可能性が示されたという段階ではありますが、高齢化で白内障が増える状況を考えると、今後の研究に期待をしたい分野だと思います。
目以外の健康効果について研究状況をチェックしてみました
脳とアントシアニンの研究
2004年4月に「Nutritional Neuroscience」に掲載されたメキシコ国立自治大学のGoyarzu氏らの論文によると、ブルーベリーエキスをマウスに長期間投与する実験により、老化にともなう脳の機能低下を抑制できる可能性が示されています(※4)。
血糖値・糖尿病とアントシアニンの研究
2010年5月に『Journal of Nutrition』に掲載された中部大学の津田孝範教授らの論文では、マウスにアントシアニンを含むビルベリー果実抽出物を添加した餌を与えると、普通の餌を与えたものと比べて、有意に血糖値の上昇が抑えられたことが示されました。ヒトではなくマウスではありますが、糖尿病を抑える作用が示されたことは今後の研究に期待できるかもしれません(※5)。
また、2014年2月に同じく『Journal of Nutrition』に掲載されたイギリスのイースト・アングリア大学のJennings氏らの論文では、イギリスで18〜76歳の女性を対象に行われた調査でアントシアニンやフラボン(ポリフェノールの一種)を積極的に摂取している人はインスリン抵抗性が相対的にみて最も低いという結果が発表されました(※6)。インスリン抵抗性とは、インスリンの作用が十分に発揮できない状態なので、それが低いということは糖尿病を引き起こすリスクを軽減する可能性につながりそうですね。
美容とアントシアニンの研究
美容業界では、しみ・しわ・たるみ・くすみなどの肌の老化につながる原因のひとつに、体内の酸化の進行が挙げられ、「抗酸化作用」の働きに関心が集まっています。
この領域についても、現段階では断定的な効果が出ているわけではありませんが、肌の酸化を予防する対策のひとつとして、活性酸素の働きを抑える抗酸化物質を摂取することが良いとする考えもあるようです。この観点からは、抗酸化物質であるアントシアニンにも肌への効果が期待できるかもしれません。
まだ明確な研究成果は編集部が知りうる限り見いだせていませんが、この分野においてもアントシアニンの研究が進むことを期待したいですね。
最近研究が増えてきたアントシアニンを含むビルベリーエキスによる目の疲労感を抑える効果に注目!
アントシアニンの働きについては、このようにさまざまな研究や報告がなされています。その多くはマウスなどを使った基礎研究なのですが、最近になって、ヒトでの臨床試験も活発になってきています。
主な理由は、2015年4月に始まった「機能性表示食品制度」です。機能性表示食品として食品の機能を表示するためには、事業者側が機能性と安全性を消費者庁に提出する必要があります。そのため、各事業者がヒトによる臨床試験を行い、アントシアニンが目の疲労に対してどんな作用をするのかを検証するようになったといわれています。いくつか、その研究内容を紹介します。
目の痛みなどの自覚症状が低下、ピント調節力の低下も改善される可能性
まずは、「薬理と治療」2013年41巻2号に掲載された、ユニキス株式会社の瀬川深氏らの研究チームによる論文です(※7)。
この論文によると、VDT作業従事者や眼精疲労の症状を自覚している人を対象に、ビルベリーエキスを1日160mg(アントシアニンにして57.6mg)、4週間摂取し、プラセボ群と比較した結果、目の痛みやかすみなどの自覚症状は有意に低下、目のピント調節力の低下も抑制されている可能性が示唆されました。
VDT光による眼精疲労の自覚症状が軽くなる
次に、2014年11月発行の「Progress in Medicine」34号に掲載された、早稲田大学の矢澤一良氏らの研究グループによる論文です(※8)。
眼精疲労の症状を自覚している人を対象に、1日あたりのビルベリーエキス量480mgを含むサプリメントを12週間摂取し、プラセボ群と比較した結果、目の疲れやかすみなどの自覚症状のスコアが低下しました。このことから、アントシアニンのVDT作業による眼精疲労の自覚症状が軽くなる効果が示唆されました。
休息後の目の疲労感軽減につながる可能性
さらに、「薬理と治療」2015年43巻3号に掲載された、株式会社オムニカの小齊平麻里衣氏らの研究チームによる論文です(※9)。
この論文によると、VDT作業に従事し眼精疲労の症状を自覚している人を対象に、ビルベリーエキスを1日160mg(アントシアニンにして59.2mg)、4週間摂取した後、スマートフォンでゲームを行い、その前後と20分の休憩後に目の疲れについてのアンケートと縮瞳率などを調査、プラセボ群(偽薬)と比較しました。
結果、目の疲れレベルの低下及び休憩後の回復が認められ、目の調節力などを評価する縮瞳率は休憩後にプラセボ群と比べて著しく回復したことが認められました。
▼以上3つの実験については、こちらの記事が詳しいです
ビルベリーエキスがパソコン作業時の目の疲労感を抑えてくれるってホントなのか?3つの研究論文から解説
アントシアニンの健康効果は目だけじゃない!?これからの研究に注目
主に目に対する健康効果が注目され、すでにサプリメントなどに利用されているアントシアニン。しかし、その健康効果は目だけでなく、脳、血糖値などの分野でも研究され、美容領域でも注目されつつあることを紹介しました。
研究がこれからも進み、アントシアニンの効能や効果がさらに明らかになっていくことを期待したいと思います。
■「アントシアニン」が気になる方はこちらもチェック
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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。
【参考】
※1 : Bastide P, Rouher F, Tronche P. [Rhodopsin and anthocyanosides. Apropos of various experimental facts]Bull Soc Ophtalmol Fr. 1968 Sep-Oct;68(9):801-7.
※2 :Ogawa K, et al, The protective effects of bilberry and lingonberry extracts against UV light-induced retinal photoreceptor cell damage in vitro. J Agric Food Chem. 2013 61(43):10345-53.
※3 : みらい研究所|多くの人が悩む白内障に北欧産ビルベリーが働きかける新たな予防効果を発見!
※4 :Goyarzu P, Malin DH, Lau FC, Taglialatela G, Moon WD, Jennings R, Moy E, Moy D, Lippold S, Shukitt-Hale B, Joseph JA. Blueberry supplemented diet: effects on object recognition memory and nuclear factor-kappa B levels in aged rats.
※5 :Takikawa M, Inoue S, Horio F, Tsuda T.Dietary anthocyanin-rich bilberry extract ameliorates hyperglycemia and insulin sensitivity via activation of AMP-activated protein kinase in diabetic mice.
※6 :Jennings A, Welch AA, Spector T, Macgregor A, Cassidy A. Intakes of anthocyanins and flavones are associated with biomarkers of insulin resistance and inflammation in women.
※7 : VDT作業負荷による眼精疲労自覚症状 および調節機能障害に対するビルべペリー果実由来アントシアニン含有食品の保護的効果
※8 : ビデオディスプレイ端末光への曝露に起因する眼精疲労自覚症状に対するビルベリー果実抽出物含有食品の保護的効果
※9 : 標準ビルベリー果実抽出物による眼疲労改善効果
【画像】
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