iPS細胞の角膜が注目される今、日本のアイバンクの実情は?坪田一男教授に聞いてみた

  • 大江 絵美
  • 編集長
坪田教授アイバンクについて話しはじめの写真

角膜治療の第一人者である坪田一男教授。1990年代に独自のアイバンクを立ち上げた教授は、今日までに様々な形でアイバンクの啓発活動を続けてこられました。2019年10月には、坪田教授が原作を手掛けたアイバンク啓発ミュージカルの新作である「小さな貴婦人」が上演されます。

▼アイバンク啓発ミュージカル坪田教授インタビュー
角膜治療の第一人者、坪田一男教授が原作を手掛けたミュージカル「小さな貴婦人」

▼坪田教授の「アイバンク啓発ミュージカル・世界一受けたい目の授業」情報はこちら
アイバンクミュージカル2019 ~ 小さな貴婦人 ~ 

前回はミュージカルについて坪田教授にお話を伺いましたが、今回はミュージカルの背景にあるアイバンクについて聞いてみました。長年アイバンクに携わってきた坪田教授が捉える、日本のアイバンクの実情や課題とは?

そして、iPS細胞をはじめとした再生医療の研究が進んでいく中で、アイバンクの位置付けはどうなっていくのでしょうか。


坪田 一男(つぼた かずお)教授(眼科医)
1980年慶應義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。1985年渡米、1987年ハーバード大学フェローシップ修了。1990年に東京歯科大学眼科へ赴任、新しいアイバンクシステムを導入し角膜移植件数を急伸させ、日本屈指の角膜治療施設を実現する。2004年より現職。角膜移植およびドライアイ、屈折矯正手術分野における第一人者。1999年には再生医療の先駆けとなった「角膜上皮のステムセル移植術」を発表し注目を集めた。日本眼科学会評議員、日本角膜学会評議員、日本抗加齢医学会理事など。近著に『視力再生の科学
』(PHP)、『あなたのこども、そのままだと近視になります。』(ディスカバー携書)
など多数。http://www.tsubota.ne.jp/


アイバンクって目の玉を保存するわけじゃないって知ってました?

坪田教授アイバンクについて話す写真

大江編集長(以下、大江):10月には新作のアイバンク啓発ミュージカルが上演されますが、アイバンクについてよく知らないという方も多いと思います。私もはじめはアイバンクの5文字を理解できず、実際に調べてみてわかったりしました。

坪田教授(以下、坪田):アイバンクといっていますが、正しくは「角膜バンク」です。意外とここが知られてない。

大江:たしかに、私も初めてアイバンクの単語を知った時は角膜とは思っていなかったですね。「アイ」というから目そのものを思い浮かべた気がします。

坪田:そうそう。「アイバンクって何やってるの? 目のバンクって銀行?」と思われているくらいで(苦笑)。昔の先生たちがアイバンクと呼んでいたので、今もそう呼ばれているんですが、角膜移植のための「角膜バンク」が正しい理解になります。

大江:アイバンクというと、目を保存していると思う人が多そうなんですが。

坪田:はい、ここもよく誤解されがちなんですが、目の玉をそのまま保存しているのではなく、角膜を保存しているんですよ。実際には、保存というよりも橋渡しです。

ドナーからご提供いただくのは献眼という形で眼球なのですが、それから黒目の表面の透明な「角膜」を、移植を待たれている患者様にお届けするのがアイバンクです。

大江:なるほど、そう説明されると、目の玉を保存されるんだという印象よりも、角膜移植につながることがよくわかりますね。

坪田:角膜移植の技術は進歩しましたが、アイバンクそのもののシステムは同じで、お亡くなりになられた方から角膜をいただいてそれを患者さんにお渡しする。これは変わっていません。アイバンクとは角膜移植のために角膜を橋渡しするためのシステムだということはぜひ知ってもらいたいですね。

7割の方は賛成なのに実際には1割しか実現していない!?

坪田教授アイバンクについて熱弁の写真

大江:アイバンクに興味を持ってドナー登録してくれる人ってどれくらいいるんでしょう?亡くなった後とはいえ、目を提供するのは抵抗があると感じている人も多いような気がして。

坪田:私の経験からの話になりますが、「亡くなった後に角膜を提供してもらえますか?」と聞くと、都内での調べではだいたい6〜7割くらいの人が賛成してくれます。でも、実際の手続きが面倒だったり、ご家族がご本人の意思を知らないこともあったりして、現実的には慶応義塾大学病院だと献眼に同意をされる方は11%くらい、約1割という現状です。

大江:大半の方が賛成してくれているはずなのに、その意思が生かされていないということですか?

坪田:患者様がお亡くなりになると、ご家族の方にアイバンクの存在を伝え、「ドナーになれる権利があります」とお伝えてしています。もちろん、ドナーにならない権利もある。それは自由です。どちらがいいとか、悪いということではない。選択のチャンスがあるということです。目が見えなくて困られている方のお役に立ちたいと思っている方はたくさんいらっしゃるのですが、実際にお亡くなりになられたときにその気持ちがほとんど生かされていないのです。これはとても残念なことだと思います。

大江:そのギャップを埋めていくために何か考えていらっしゃることはありますか?

坪田:はい、やはり啓発活動が重要と思い、20年前から、ドナーファミリーの集いやチャリティーマラソンのイベントを開催したり、テレビやマスコミの取材でもお話ししています。ミュージカルもそのひとつです。家族で角膜移植について話していただくきっかけになれば嬉しいです。

半分以上がアメリカのアイバンクからの輸入。自分の国の病気は、自分の国の善意で治したい

大江:ドナーからの提供が少ないとのことですが、角膜の数は足りているのでしょうか?

坪田:全く足りていない状況が続いています。その多くがアメリカのアイバンクに頼っている現状です。

大江:輸入が多いとは驚きました! アメリカでは、角膜移植への意識が高いということでしょうか?

坪田:そうですね。アメリカと日本では考え方も法律も違います。アメリカのアイバンクでは州によっても違いがありますが、多くは本人の拒否の意思表示がなければ臓器提供に同意したものとみなされることが一般的で、その意思表示をすることが社会に浸透しています。さらに医療現場に移植医療のためのさまざまなシステムが確立されています。

大江:日本とはそもそもの仕組みが違うんですね。

坪田:でも、これはあくまで緊急対応であり、病気を他の国の人の善意で治しているのはよくありません。やっぱり自分の国の病気は自分たちの国の善意で治していきたい。そう思いませんか?

iPS細胞で角膜が作れるようになったら、アイバンクはいらなくなる?

坪田教授アイバンクについて身振りのある写真

大江:最近iPS細胞の角膜を使って移植手術をしたというニュースが話題になっていましたね。再生医療の分野も研究が進みはじめていますが、角膜に関しても再生医療が一般的になっていくと思いますか?

坪田:慶應でもiPS細胞から角膜を作る研究が進んでいます。2021年までに臨床研究をすすめて、2024年くらいには実際に患者さんに治療を提供できるようになることを目標にしています。

大江:iPS細胞で角膜を作れるようになったら、ドナーが増えなくてもiPS細胞でどうにかなるのではという希望をもったのですが、今後アイバンクは必要なくなるということでしょうか?

坪田:いいえ。結論からいうと、iPS細胞で角膜を作れるようになってもアイバンクは残ります。再生医療だけでは、全てをカバーできないからです。

大江:では、今まで通り亡くなった方から提供していただいた角膜と、iPS細胞で作った角膜を併用していくことになるということでしょうか。

坪田:そういうことですね。将来的には、アイバンクと再生医療が半分半分くらいになるといいのではないかと思います。

大江:ということは、先生はこれからもアイバンクの啓発を続けていかれるのですね。

坪田:はい。これから先も自分の知識をもとに、幅広い世代の方に伝わりやすい形でアイバンクの啓発を行なっていきたいと思います。角膜移植のためにはアイバンク が必要です移植治療を受ける、受けないも自由ですし、角膜や臓器を提供する、しないも自由です。大切なのは家族でそれについて話して、もしものときにその意思を生かせる社会であることです。アイバンクについてもっともっと多くの方に知っていただきたいと思います。

これからも続くアイバンク 。幅広い年齢層に知られるための啓発を

坪田教授と大江編集長の写真

アイバンクを1人でも多くの人に知ってもらうべく、今後も啓発活動を続けていくと語る坪田先生。
アイバンク啓発ミュージカル「小さな貴婦人」は小さなお子さんにも分かりやすいストーリーになっているので、これまでよりも幅広い年齢の人がアイバンクに触れる機会となるはずです。

ミュージカルの前には坪田先生の講演「世界一受けたい目の授業」も聞けるので、興味を持たれた方は下記Webサイトにアクセスしてみてくださいね。

▼坪田先生の「アイバンク啓発ミュージカル・世界一受けたい目の授業」情報はこちら
アイバンクミュージカル2019 ~ 小さな貴婦人 ~ 

今後、iPS細胞などの最新医療技術の研究が進んでいく中でも、アイバンクは続いていくことが予想されます。

10年後、20年後にもアイバンクが存続し、ドナーが増えていくことで、坪田先生の理想である「日本の人々の善意が生かされる社会」の実現に近づくのではないでしょうか。

この記事を書いた人

編集長

大江 絵美

わかさ生活みらい研究所研究員。健康食品管理士。岐阜薬科大学薬効解析学研究室に4年間出向し、眼のこととビルベリーの健康効果についての研究を行ってきたスペシャリスト。眼のこと、サプリメントの素材について新しい研究や調査を行っています。

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