3歳児の視力検査は親まかせ!?社会の現状が2万人の弱視児を生んでいる実態とは?-高橋ひとみ教授に聞く

  • 大江 絵美
  • 編集長
高橋ひとみ教授の写真

3歳児健診では「視力検査」が法律で義務づけられていることをご存じですか?

「あれ?うちの子やったかしら」「そういえば、何か検査キットのようなものが送られてきたような気も…?」と、記憶があいまいな方もいらっしゃるかもしれません。

それもそのはず、3歳児の視力検査は全国の自治体のほとんどが健診会場で実施しておらず、9割以上が親まかせとなっているんです。

このような実態が年間約2万人の子どもの医学的弱視(※)を生んでいる可能性があるとしたら、皆さんはどう思われますか?  

なぜそんな状況が生まれているのか、「3歳児の視力検査」の啓もう活動を行われている、高橋ひとみ教授にうかがいました。

※医学的弱視とは日本眼科学会HPによると「視力の発達の感受性期に適切な刺激を受け取ることができなかったために生じた弱視で、眼鏡をかけたり訓練をしたりすることで視力が良くなる可能性があります。」と定義されています。

▼高橋ひとみ教授「3歳児の視力検査について」他の記事はこちら
3歳児の視力検査を楽しく行えるキット「たべたのだあれ」-高橋ひとみ教授に発案の想いを聞く
「3歳児の視力検査はなぜ大事!?」子どもの医学的弱視のしくみから高橋ひとみ教授が解説

 


高橋 ひとみ(たかはし ひとみ)教授

情報化社会における、視力検査の意義や有効性に関する研究を行っている。視力検査は3歳から必要との考えから発案した、視力検査キット「たべたのだあれ」は、「第9回キッズデザイン賞」で経済産業大臣賞を受賞。
現在「たべたのだあれ」は、幼稚園や保育園などから注目を集め、講演なども数多く行っている。


 

3歳児健診での視力検査、親任せの自治体は何と93.7%!

大江編集長の写真

大江編集長(以下、大江):3歳児の視力検査が健診会場で実施されていないというのは、どういうことでしょうか? 法律で義務付けられていれば、当然身体測定などと同様、会場で行われそうなものですが…。

高橋教授(以下、高橋):母子保健法で規定されており、実施もされています。

ですが、近年の調査(※1)によると3歳児健診会場で視力検査を実施している自治体は、わずか2.9%。実施していない自治体が0.8%。家庭に委ねている自治体が93.7%なんです。

大江:保護者に委ねるとはどういうことなのでしょうか?

高橋:ほとんどの自治体が、第一次視力検査として家庭に「視力検査の視標」を送付し、保護者が視力検査をするという実施方法なんです。

大江:視力検査の視標を送るというと?

高橋:視力検査に使う視標には、ランドルト環や絵視標があります。この「視標を印刷した用紙」と「視力検査のマニュアル」、そして「見え方に関するアンケート用紙」を家庭に送り、「この視標を使って視力検査をしてね。見え方で気になることがあればアンケートに答えてね」で、視力検査をすませているのです。そして、問題があれば健診会場で尋ねるという形です。

大江:それは…家で正しく視力が測れるかどうかというと、難しそうですね…。

高橋:そうなんです。しかも「練習用の輪っか」を作るところから始めなくてはいけないことも。これって結構面倒ですよね。

大江:お母さんは忙しいですし、3歳児といえばイヤイヤ期といわれ、子育て期の中でも大変な時期でもありますし…。

高橋:お母さんの中には、「うちの子はテレビを見ているし大丈夫」「絵本を読んでいるから大丈夫」と思っている方も多いようなんです。

私も子育てはしてきましたから、お母さんの気持ちは分かります。弱視について何も知らなければ、視力検査の重要性も分かりませんからね。

大江:親御さんたちがご存じないなら、国として3歳児健診以外でも視力検査ができる場を広げようといった取り組みはないのでしょうか?

高橋:幼稚園では学校保健安全法により、保育園では児童福祉法により、3歳児からの視力検査実施が規定されています。

大江:幼稚園もしくは保育園に通っている子どもは多いでしょうから、各園で実施してもらえると助かりますよね。

高橋:それが…日本眼科医会の調査(※2,3)によると、幼稚園での実施率は48.3%(平成20年)、保育所での実施率は34.7%(平成24年)にとどまっており、3歳児に限ると、幼稚園は12.9%、保育園は12.8%しか実施していないそうなんです。

大江:わずか、1割強ですか…。

問題は実施率だけではない!3歳児の視力検査の重要性が社会に伝わっていないという現状

3歳児の視力検査実施中の写真

大江:それでも親御さんから疑問の声が上がらないのは、3歳児の視力検査が子どもを医学的弱視から救う機会であることをご存じないからですよね?

高橋:そうだと思います。子どもの弱視の多くは、生まれて6~7歳頃までの視力が発達する期間に見ることを妨げられたために、視力が遅延したり停滞したりする医学的弱視です。

医学的弱視は、早期発見、早期治療により、救済が可能です。

大江:だから、3歳で視力検査をして視力不良者を発見することで、治療ができるんですよね?

高橋:そうです。まずは視力検査で異常に気づき、病院で検査をして治療する。一般的に、3歳頃までなら約95%は改善できるといわれているんです。

大江:95%とはかなり高い確率ですね! これを知らない親御さんは多いでしょう。

高橋:乳幼児健診や幼稚園、保育園で視力検査を受ける機会がなくて、視力不良を見逃したために弱視になる子どもが2~3%もいるのですよ。日本の赤ちゃんの出生数から考えると、毎年約2万人が弱視になっている計算になります。

大江:確かにそうですよね。

高橋:それは、「医学的弱視は早期発見、早期治療により救済できる」という知見が広く知られていないからです。

「不幸にもうちの子は弱視になってしまった…」と思っている親御さんが多いのです。だから、子育て中の人に知らせる広報活動が必要です。

3歳児健診で「視力不良を発見し、治療するなら医学的弱視にならないですむ」ことを、行政も認識していますが、育児の現場である自治体や幼稚園、保育園の対応とのギャップがあるように感じます。そして、結果として弱視の問題についての正しい知識が浸透していない

これこそが大きな問題だと私は考えているのです。

大江:「社会の現状が医学的弱視を生む」という高橋教授のお考えが、とてもよく理解できました。

医学的弱視の発見が遅れると、義務教育のスタートが平等に切れない!

講義中の高橋ひとみ教授の写真

大江:ところで、3歳児健診で視力検査が正しく行われなかった場合、次の視力検査というと、小学校入学前の就学時健診になりますね。

ここで発見できても、治療は難しいのでしょうか?

高橋:残念ながら、そうです。個人差はありますが、視神経の回路が作られる期間は6〜7歳頃までです。この時期までに治療を開始しないとメガネなどで矯正しても視力がでない状態のままで過ごさなくてはいけない可能性が高くなります。

さらに低年齢ほど医学的弱視の治療効果は大きいのです。

就学時健診で発見しても治療に時間を要し、期待どおりの視力の改善も難しいのです。

大江:そうなると、義務教育の始まる小学1年生で、みんなと同じように授業が受けられなくなる可能性があるということでしょうか。

高橋:視力不良による負担を抱えながら授業を受けることになりますから、学習能率はよくないですね。

大江:そういう意味でも3歳は大事ですよね。3歳で治療を始められれば、義務教育スタート時に間に合う可能性は高くなるでしょうから。

高橋:その通りです。すべての子どもが平等に義務教育を受けられるように、3歳児の視力検査の実施率を上げてほしいと思っています。

保育園、幼稚園の現場ではどのように考えている?

大江:高橋教授は、ご自身が発案された検査キット「たべたのだあれ」を使って、3歳児の視力検査の啓もう活動を行われているということですが、現場での反応はいかがですか?

高橋:幼稚園や保育園で実施すると、園児たちが実際にやる姿を見ていただけるので、「こんなに簡単にできるなんて!」と驚かれますね。

大江:私も体験させてもらいましたが、本当に簡単ですよね。これなら3歳児でも十分できると思いました。

高橋:体験して良さが分かることで、「たべたのだあれ」を使った視力検査を導入する園も少しずつ増えています。

大江:自治体への働きかけもされているんですよね?

高橋:説明には行くのですが、聞いてくださった担当者の方だけで決定できることではなく、導入までもっていくのには時間がかかるようです。

実施に向けて動いてくださっていても、担当者が変わってしまうということもありますし…。

大江:スピード感をもって対応していただきたいけれど、難しいというのも分かりますね。

子どもの医学的弱視を防ぐために、私たちにできること!

大江:こうなったら、当事者の親御さんである、お母さんやお父さんにもっと声を上げてもらう必要があるかもしれませんね。

高橋:はい。それは私も感じていて、最近はイベントなどで直接お母さんやお父さんに伝える機会を増やしているんです。

大江:皆さんの反応はいかがですか?

高橋:保護者が見学すると、「こんなに簡単にできる視力検査があるのなら、上の子のときにもやってほしかった」という声を、よくお聞きします。弱視のお子さんをもった保護者ですね。

市会議員の方も視察に来られます。そして自分でも体験し、容易にできる実感をもってくれます。ついでに言いますと、これは「近くを見る視力検査」なので、老眼の検査にもなります。そのため、大人も興味をもって、「たべたのだあれ」って視力検査を行っていますよ。

大江:大人の方も、興味をもたれるんですね。

高橋:ただ、私一人の力では、伝えることに限界があるんです。今回のインタビューもそうですが、協力して広めてくださるところも探しています。

大江:そうですね! 私たちメノコト365編集部としても、多くの方に呼びかけていきたいと思います。

■幼児期のお子さんがいるお母さん、お父さんへご協力のお願い
メノコト365編集部では、この記事の公開とともに「3歳児視力検査」について、幼児期のお子さんがいるお母さんやお父さんの声をお聞きしたいと考えています。
皆さまからいただいたお声を元に、「たべたのだあれ」や子どもの視力検査の重要性について、認知と理解を広めていく活動につなげたいと考えております。
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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考】
※1 : 日本眼科医会公衆衛生部 三歳児眼科健康診査調査報告(Ⅴ)平成24年度 P26表5
※2 : 日本眼科医会 平成 20年幼稚園ならびに就学時の健康診断の実態に関するアンケート調査 P57図4,5
※3 : 日本眼科医会 平成 24 年度全国保育所における「目の保健に関わるアンケート調査」報告 P64図3,4

この記事を書いた人

編集長

大江 絵美

わかさ生活みらい研究所研究員。健康食品管理士。岐阜薬科大学薬効解析学研究室に4年間出向し、眼のこととビルベリーの健康効果についての研究を行ってきたスペシャリスト。眼のこと、サプリメントの素材について新しい研究や調査を行っています。

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