
私たちの目は、事故や病気で視力や視野を失ってしまうとほとんどの場合元に戻すことはできません。しかし、身近に生息しているとある巻貝の再生能力を研究することで、失った視力や視野を取り戻せる可能性がでてきました。
増え続ける視覚障がい者
日本眼科医会によると、日本には165万人以上の視覚障がい者がいるといわれています。日々治療法や再生医療の研究が行われていますが、2030年には視覚障がい者は200万人近くまで増えると予想されています。
しかも、視力や視野を失う原因はさまざまで、全ての視覚障がい者に対して共通の治療法はありません。
そんな中、2025年8月に私たちの身近に生息しているすくみリンゴガイという巻貝が目を丸ごと再生できることがわかったと科学雑誌「naturecommunications」に掲載されました。
目を丸ごと再生できる巻貝「すくみリンゴガイ」
すくみリンゴガイは、日本ではジャンボタニシとも呼ばれる南米原産のリンゴガイ科の貝です。すくみリンゴガイの目の構造は人間の目と同じような構造だということもわかっていて、私たちの目よりも高性能だそうです。
ソンナスクミリンゴガイは、アメリカのカリフォルニア大学デービス高の研究チームの最新研究により、目を丸ごと完全に再生できる初の脊椎動物であり、遺伝子操作も可能な実験モデルになることが明らかになりました。
わずか1か月で再生可能
研究チームは、すくみリンゴガイの目を丸ごと切除し、その後の再生過程を1か月にわたって追跡しました。
すると、24時間以内に傷口は閉じ、3日目には未分化の細胞が出現。そこから網膜やレンズに相当する部分が再形成され、28日後には視神経まで含めた目が全て再生されていたそうです。しかも、その目は元の目とほぼ同じ構造と遺伝子発現パターンを示していました。
この再生は、エピモルフォーシスという細胞分裂と組織再構築を伴うメカニズムで、一部のサンショウウオやゼブラフィッシュが持つ再生能力に近いものだということです。
研究チームのメンバーたちも、すくみリンゴガイにこのような複雑な期間を再生できる能力があったことに驚いていたようです。
再生のカギを握る遺伝子「pax6(パックスシックス)」
さらに研究チームは、すくみリンゴガイの目の再生過程でどの遺伝子が活性化されているのか解析しました。
その結果、脳や目の形成において極めて重要な遺伝子で、ヒトを含む多くの動物で共通して機能している「pax6」が巻貝の目の再生時にも活発に働いていることが判明したのです。
しかも、pax6遺伝子がなければ、目がまったく再生しないことも遺伝子編集により照明されました。
そのうえすくみリンゴガイの卵を外部で培養しmRNAをを注入して遺伝子発現を操作する技術も確立しました。これはこの巻貝が遺伝子操作可能な再生モデルとして本格的に活用できることを意味しているそうです。
この技術を応用すれば、目の再生に必要な遺伝子群を特定し、それをヒトの幹細胞に導入することで視力回復を目指すといった未来の治療法につながるかもしれません。
終わりに
巻貝とヒトの目の構造はまったく同じではありませんが、pax6のような遺伝子が存在する以上、研究を続けることで現在の医学の限界を超える手がかりが得られるかもしれません。
私は、網膜色素変性症という進行性で治療法がほとんどない目の病気です。現在ほとんど見えておらず、見えなくなるのを待つしかないかなと思っていたのですが、研究が進めば失った視力や視野を取り戻すことができるかもしれません。今後の研究結果に注目です。
参考
失った目を完全に再生できる巻貝「スクミリンゴガイ」、人間にも応用可能か? – ナゾロジー