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見えない・見えづらい方へのお役立ち情報

視覚に障害があっても一人で走りたい!そんな想いを叶えるための取り組み「Project Guideline(プロジェクトガイドライン)」

視覚障がいの方は、ひとりでマラソンの練習ができない悩みがある、マラソンの練習をする視覚障がいの方とわかさ生活のスタッフ

私は視覚に障害があり、ほとんど見えていないため1人で走るのはかなり難しく危険です。視覚障がい者と健常者がペアになり走ることができるランニングチームの練習会に時々参加していますが、自分が走りたい時間に自由に走ることができません。そこで今回知ったのが、「Project Guideline(プロジェクトガイドライン)」という取り組みです。

障がい者のスポーツ実施状況

視覚障がい者の方が「きずな」をもって伴走者と息を合わせて楽しそうに走る様子スポーツ庁の調査によると2021年の成人のスポーツ実施状況は健常者で56%だったのに対し、障がい者では31%と2倍近い差がありました。
すべての国民がスポーツを楽しみ、スポーツに参加する機会を持つことは、法律で定められています。しかし、私と同じように視覚に障害があると、自分1人で走りたいときに走ることができない状況となります。そんな視覚障がい者の想いを何とか叶えたいと取り組まれているのが「Project Guideline」です。

 

「Project Guideline」とは

「Project Guideline」は、視覚に障害がある人が人工知能「Google AI」の力で1人で自由に走ることを可能にすることを目指す「Google Research」の研究開発プロジェクトです。
きっかけはアメリカのNPO、Guiding Eyes for BlindのCEOであり、全盲のマラソンランナーでもあるThomas Panekさんからの「視覚障がいのあるランナーが1人で走るために、Googleのテクノロジーを使ってできることはないだろうか?」という問いかけからだったそうです。そして、それに答えようと「障害の有無に関わらず、誰もが自由に自分の可能性を追求できる社会へ」という理念のもと2020年アメリカで
プロジェクトが開始されました。

「Project Guideline」の仕組み

「Project Guideline」は、Androidのスマートフォン上で動作する機械学習技術を駆使した画像認識AIを使用しています。
スマートフォンのカメラを通して地面に引かれた色のついた線を認識し、その線がランナーよりも左なのか右なのか、線の上を走っているのかを瞬時に判断し、ヘッドフォンを通じて音声シグナルを送ります。ランナーはその音を頼りに、線から逸れることなくランニングを楽しめるという仕組みです。

視覚障がい者だけでバーチャル駅伝へ参加

アメリカで始まったプロジェクトはオリンピック・パラリンピックが行われたことでパラスポーツへの注目が高まった2021年には日本でも発表され、技術をさらに向上させるための活動が始まりました。
そして、2022年には障がい者と健常者が共にランやウォークを楽しむことを目指して活動するNPO法人アキレス・インターナショナル・ジャパンへの技術提供が行われました。
1チーム6人でデジタルタスキを繋ぐバーチャル駅伝レース「ASICS World Ekiden 2022」に、視覚障がいのあるランナーだけで参戦するというチャレンジを支援。
結果は、6人のランナー全員が「Project Guideline」の助けだけでタスキを繋ぎ、42.195kmを4時間29分44秒で完走。世界中から参加した健常者のチームとも互角に渡り合ったそうです。

オープンソースによるコミュニティへの貢献

また、2023年には、主にアクセシビリティの分野での技術革新に取り組む方々のコミュニティに貢献するため、「Project Guideline」をオープンソースとして公開されました。開発した基幹技術のソースコードや学習済みの画像認識モデル、3Dシミュレータなどを誰もが無料で利用できます。これにより、世界中の開発者や研究者が 「Project Guideline 」の技術を新たなアクセシビリティへの取り組みに活用したり、全く新しい分野の技術開発に応用したりもできるようになりました。

 

より多くのランナーに体験してもらうために

さらに、今年(2024年)は横浜市の障害者スポーツ文化センター横浜ラポールの協力のもと、「Project Guideline」の新たな取り組みが行われました。
横浜ラポールの地下トラックに「Project Guideline」を導入し、視覚障がい者のランナーが体験できるプログラムが定期的に実施されました。
それによって、より多くのランナーの方に「自由に1人で走れる」体験をしてもらうとともに、「Project Guideline」をより良い技術としていくための意見の収集が行なわれました。

さらなる精度の向上を目指して

白線に沿って走るランナー人間の目では道路に引かれた線を見分けることは簡単ですが、それを機械で処理することは難しいようで、ランナーが装着したカメラは常に揺れていますし、外では光の向きや明るさも常に変化します。コースには影や落ち葉もあり、カーブもあれば地面の色も一定ではありません。
そうしたさまざまな条件下でも正確な判断をできるよう、Googleの持つ技術を組み合わせて前方にあるカーブを事前に認識してランナーに通知したり、上記で紹介した取り組みの結果などを踏まえ将来的には障害物の検知などにも対応できるよう活動を続けられています。

 

最後に

私はここ数年更に見えない状況が進行し、走るどころか1人で外を歩くことすら危険を感じています。そんなときにこのプロジェクトのことを知り、もし自分が見えなくなっても1人で走ることができる未来が来るかもしれないと期待に胸を膨らませています。
毎年新たな取り組みも行われていて、更なる技術の進歩やデータの収集も進んでいるようなので、続報を待ちたいと思います。

この記事を書いた人

山本 旭彦

わかさ生活ヘルスキーパー。網膜色素変性症によって視野が狭くなり、暗いところも見づらい症状をもつ。視覚障がいへの理解、気軽にサポートできる環境を広めようと、「あきひこさんの一日」と称した出張授業を小学校などで継続的に実施しています。

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