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視覚に障害があってもスポーツ観戦を楽しむことができる音声実況AI「VOICE WATCH(ボイスウオッチ)」とは

スポーツ観戦

多くの方が熱中しているスポーツ観戦。テレビや配信サイトで見るだけでなく、試合会場に足を運び推しの選手や好きなチームを直接応援する方も沢山いらっしゃると思います。視覚に障害がある私も会場に行って皆と一緒に応援したいと思う気持ちはあるのですが、観戦に行きたくても行くのをためらってしまいます。
今回はそんな視覚障がい者のスポーツ観戦におけるバリアフリー化を実現するために開発が進められている技術を紹介します。

スポーツ観戦における視覚障がい者の悩み

これまで、家族や友人と野球などスポーツ観戦に何度か行ったことがあるのですが、私は視覚に障害があるため試合の内容がわからないことや、点を取ったりファインプレーなどの盛り上がる場面で何が起こったのか理解できず自分だけ取り残された気持ちになったことが何度もありました。
一緒に行った友人に何が起こっているのかを説明してもらったこともあるのですが、ずっと説明してもらっていてはその方が試合に集中できず楽しめていないのではないかと感じてしまい、状況を聞くのをためらうことがありました。
視覚障がい者の友人からも私と同じ理由で、試合会場に行きたくても行けないという話を聞いたことがあります。そんなときに知ったのが「VOICE WATCH」です。

 

「VOICE WATCH」とは

「VOICE WATCH」は「誰もがスポーツ観戦を楽しめる社会」を目指す株式会社電通のプロジェクトチームが、スポーツ観戦における視覚障がい者のバリアフリー化を目指して開発を進めている音声実況AIです。
AIを活用して視覚情報を音声情報に変換することで目の前で起きている光景をリアルタイムで視覚障がい者へ伝えることができる技術です。

スーパー耐久レースで初めて導入

スーパー耐久レース引用:https://mobility-contest-blog.com/dentsu-future_creative_center-2022/
「VOICE WATCH」が最初に導入されたのは、2022年に岡山国際サーキットと鈴鹿サーキットで開催された日本最大のF1の耐久レースである「スーパー耐久レース」です。
この大会では、見えなくても目の前で繰り広げられるレース展開をリアルタイムで把握できるよう3つのAIが活躍しました。
1,物体認識AI
ネットワークカメラ化したスマートフォンで観客席から撮影。事前に記憶させた出場する各チームの車の画像を元にカメラの前をどのチームが通ったのかをAIが判別。さらに、撮影した映像を鳥観図に変換することでコース全体も把握できます。
2,兆し発見AI
AIが各チームのタイムや順位が表示される走行データモニターの数値情報を取得。リアルタイムに更新される膨大な走行データを分析し、逆転の兆しといったこれから起こりうる100以上の未来を予測することができます。
3,発話フレームAI
日本を代表するレース専門のプロアナウンサーの約50時間分の実況音声をAIが学習することでプロの実況ノウハウを抽出した独自の発話フレームを構築し、観戦を盛り上げる実況フレーズをAIが再現してくれます。

世界水泳選手権では新機能も追加

水泳競技会続いて導入されたのは2023年7月に福岡県で開催された「世界水泳選手権2023福岡大会」です。
障がいの有無に関係なく観戦体験の向上を目指している世界水泳連盟(World Aquatics)の協力のもと、視覚障がい者が水泳を「聴く」という新しい観戦体験が実現しました。上記でも紹介した「物体認識AI」「兆し発見AI」「発話フレームAI」により、映像から各選手のポジションを把握、タイムと順位のリアルタイムデータからはわずかな変化を補足。コンマ1秒差を争うような白熱のレースもデータを元に実況が行われました。
さらに「VOICE WATCH」の新機能として好きな選手にフォーカスして実況する「推し実況」と「多言語実況」のトライアルも実施されました。

 

あらゆるスポーツ観戦のバリアフリー化を目指して

「VOICE WATCH」のプロジェクトチームでは、今後もさまざまな競技への展開を予定しているそうで、障がいの有無に関わらず、誰もがあらゆるスポーツ種目の観戦を楽しむことができる社会の実現を目指されています。
例えばマイナースポーツや地方大会など、高い熱量がありながら実況のないスポーツ、また子どもの運動会など規模の大小に関わらずあらゆるスポーツを対象にしていきたいそうです。

 

最後に

バリアフリーと聞くと、点字ブロックや横断歩道の音響信号など日常生活を送る上での不便や危険を回避・解消するためのものを想像する方も多いと思います。
そんな中で視覚障がい者のスポーツ観戦におけるバリアフリー化を考えてもらえることは、当事者としてはとても嬉しいです。
障がい者と健常者が一緒になって、スポーツを心から楽しめる社会が目の前まで来ていると感じているので、さらなる技術の進歩を楽しみにしています。

 

参考URL
VOICE WATCH|ボイスウオッチ
https://voicewatch-project.com/

 

 

この記事を書いた人

山本 旭彦

わかさ生活ヘルスキーパー。網膜色素変性症によって視野が狭くなり、暗いところも見づらい症状をもつ。視覚障がいへの理解、気軽にサポートできる環境を広めようと、「あきひこさんの一日」と称した出張授業を小学校などで継続的に実施しています。

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