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見えなくても音で空間を見ることができる能力『反響定位(エコーロケーション)』とは

音を感じる能力イメージ画像

4月から放送されている全盲の捜査官が主人公のTVドラマの中で、全く目が見えない主人公が指を「パチン」と鳴らし、反響する音を聞いて周囲に何があるのか、どのくらいの広さなのかなどを確認し、ずばり当ててしまうシーンがあります。
この音で周囲の状況を確認する能力を「反響定位(エコーロケーション)」と言うのですが、この能力、ドラマの中だけの特別なものではなく、実際に利用して生活している人たちがいます。
今回はそんな「反響定位(エコーロケーション)」がどんな能力なのか、どうしてそんなことができるのかを紹介します。

 

反響定位(エコーロケーション)って何?

くじらの反響定位引用:(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

反響定位とは、動物が音や超音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなどを知ることができる能力のことで、コウモリ・イルカ・クジラなどが使っています。
その能力を一部の視覚障害者も持っていて、発した音の反響で障害物の方向や大きさ、物体の輪郭を知ることができます。利用する音としては、舌打ちによるクリック音や白杖で地面をたたく音、指を「パチン」と鳴らす音などがあります。
人間にもそんなことができるのかと驚いた方もいるかもしれません。しかし、この能力は特別なものではなく、訓練すれば誰もが習得できる可能性があることがイギリスのダラム大学の研究チームによってわかりました。

 

誰もが習得可能な能力

イギリスのダラム大学心理学部の研究チームは、2019年に反響定位が訓練によって習得できるのかの実験を行いました。
実験には、全盲の視覚障がい者12人と健常者14人が参加しました。参加者の年齢は21歳から79歳と幅広く、視覚障がい者の平均年齢は45歳、健常者の平均年齢は26歳。
期間は10 週間で、合計20回のセッションが実施されました。
内容は、反響定位を使ってT字型やU字型の交差点またはジグザグに曲がった廊下といった仮想迷路を移動する練習や、舌打ちによるクリック音を使って物体のサイズや方向を把握するものです。
最後の2回のセッションでは、参加者が歩いたことがない仮想迷路を反響定位で移動するテストが行われ、それまでのトレーニングでどのくらいの能力が習得できたのかを調査しました。その結果、視覚障がい者と健常者のどちらともが大幅に能力が向上していることが判明したそうです。しかも、79歳の視覚障がい者も習得できたことなど、実験結果から年齢や視覚障がいの有無による影響は見られなかったと言うことです。
更に3カ月間の追跡調査を視覚障がい者の参加者に実施したところ、全員が反響定位の能力によって移動性が向上したと答えたそうです。
このように訓練すれば、習得できることがわかった反響定位ですが、なぜ音を聞いただけで周囲の状況がわかるようになるのか不思議ですよね。その点について反響定位と脳の関係を調べた研究があるのでそちらも紹介します。

 

反響定位を行っているときの脳はどうなっている

反響定位引用:ナゾロジー人間でも音だけで周囲の環境を察知する「エコーロケーション」を使える人々がいた

反響定位を行っている人の脳ではどのようなことが起こっているのかを調べるため、脳をスキャンして画像化する「ニューロイメージング」という研究を用いた実験が2011年に行なわれました。
この実験では、反響定位によって脳が刺激されると、視覚野と聴覚野が連動し、更に視覚野の方が活性化することがわかりました。
この実験も同じくダラム大学心理学部の研究チームが行ったもので、反響定位を習得した全盲の5人と、習得していない全盲の5人、そして健常者が5人、合計15人を対象にそれぞれ部屋の中にある物体からの反響音を聞いてもらい、どの方向から聞こえたのかを考えてもらうというものです。
反響音を聞いている時にニューロイメージングで脳の活動を画像化した結果、反響定位を習得している人が反響音を聞いたときの脳の活動は、目が見える人が物を見たときの脳の活動と同じような反応を示し、反響定位を習得していない全盲の人とは全く違う脳の活動をしていることがわかったそうです。
このことから反響定位を習得すれば、音を聞くことで視覚野が働き、「音で空間を見る」ことができるようになるかもしれません。

 

最後に

音のイメージ画像全盲の方や進行性の目の病気により視力を失う可能性がある方にとって反響定位の習得はとても役に立つ能力ですが、訓練の方法などは確立されていません。
そして、私も視覚障害がありますが、反響定位は全く使うことができません。
しかし、訓練すれば習得できる能力だということがわかりましたので舌打ちによるクリック音の練習や自分の周りから発せられる音にもっと意識を向けてみようと思います。

参考URL
・Retinotopic-like maps of spatial sound in primary ‘visual’ cortex of blind human echolocators | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.1910

・Human click-based echolocation: Effects of blindness and age, and real-life implications in a 10-week training program

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0252330
・人間はわずか10週間の訓練で反響音を使って周囲を把握する「エコーロケーション」を習得できる
https://gigazine.net/news/20210607-humans-learn-echolocation-10-weeks/

この記事を書いた人

山本 旭彦

わかさ生活ヘルスキーパー。網膜色素変性症によって視野が狭くなり、暗いところも見づらい症状をもつ。視覚障がいへの理解、気軽にサポートできる環境を広めようと、「あきひこさんの一日」と称した出張授業を小学校などで継続的に実施しています。

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