2018年7月、アメリカのトレド大学から発表されたブルーライトに関連する研究論文(※1)をきっかけに、ブルーライトによる失明について、ネットを中心に世界中のメディアで過激な報道が広がりました。
これに対し、「ブルーライトで失明のリスクが高まるとは言えないだろう」というアメリカ眼科医会の反論が起こり(※2)、ブルーライト論争として世界的な議論になったのです。
その後、このブルーライト論争はどうなったのでしょうか?
今回は改めて研究論文の内容を確認し、この論争を振り返ってみたいと思います。
「ブルーライトで失明が早まる」トレド大学の研究発表とは
まずは、事の発端となったアメリカのトレド大学の研究発表です。
この研究論文では、まず目の網膜に存在する「レチノール」という物質に注目しています。レチノールは、網膜で光を感受するタンパク質であるロドプシンなどと結びつき存在しています。
実験ではブルーライトを浴び続けることで、レチノールが有害物質に変化してしまい、網膜の細胞のダメージの原因となることが分かりました。
このようなダメージが考えられるため、ブルーライトを長時間浴びていると、加齢黄斑変性などのリスクや進行につながるのではないかと推論しています。
なお、欧米での失明原因の第1位は加齢黄斑変性です。
この研究論文を発端として、スマートフォンのブルーライトで失明が早まる可能性があるのではないかという解釈をされ、アメリカのWebメディアが「画面があなたの眼球の細胞を殺している」と報じるなど、ネットで話題になったのです。
「ブルーライトで視力低下はない」アメリカの眼科学会の反論とは
一方、アメリカ眼科学会は、この過激なメディア報道に反論する形で声明を出しました。これはトレド大学の研究論文の解説と、筆頭著者であるAjith Karunarathne氏のコメントなどで構成されています。
内容はというと、「この論文結果だけではブルーライトが視力に影響したり、失明原因になりうるとは言えない」「スマホのブルーライトで失明することはない」というもの。
また、Karunarathne氏も雑誌のインタビューで「この研究がスマートフォンなどのブルーライトを発する液晶画面で失明することは示していない」と答えています。
その理由はトレド大学も発表しているとおり、この研究が人間の目から採取した細胞で実験されておらず、今回の研究結果は、そのまま人には当てはまるとはいえないからのようです。
日本では「ブルーライトは視力に影響しない」という誤訳でネット記事に!?
アメリカ眼科学会の声明でブルーライト論争は一件落着かと思ったら、今度は日本でもネットで間違った解釈が広まることになりました。
アメリカ眼科学会の声明が発表された後、日本では「スマホのブルーライトは視力に影響しない、視力が低下しないとアメリカ眼科学会が発表した!」というネット記事になったのです。
まるで、ブルーライトは目に安全だと取れるような内容になってしまい、元の研究論文で起こった論争とは別の議論が巻き起こってしまうことに。
この事態を受けて、今度は日本のブルーライト研究会が声明を出し、アメリカ眼科学会の声明文を完訳することになりました。一部メディアでは英語の誤訳もあるなど、本質が伝わっていないための対応でした。
「ブルーライトは視力に影響しない」というわけではなく、「ブルーライトを浴び続けても安心だということをアメリカ眼科学会が発信したわけではない」と、改めて解説したのです。
皮肉にも、このような形で日本でもブルーライト論争が起こったわけです。
世界でも日本でもネット上で「ブルーライトで失明」「ブルーライトは視力に影響ない」という安易な文字だけがセンセーショナルに書き立てられ、人の不安を煽ったというのは残念なことです。
「ブルーライト」はまだまだこれから発展していく研究分野なので、ネット情報だけに踊らされることなく、本質をちゃんと理解できるようにしたいものですね。
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【参考】
※1:Blue light excited retinal intercepts cellular signaling
※2:No, Blue Light From Your Smartphone Is Not Blinding You
※3:「ブルーライトは視力に影響しない」というネット等の報道について | ブルーライト研究会
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