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目の症状や病気と予防・治療法

眼科医が考える加齢黄斑変性。予防に役立つ成分は「ルテイン」

医師の検診を受ける男性

年々、体の健康について気になってきていませんか?実は、40歳を過ぎると注意しなければならない目の病気があります。それは、「加齢黄斑変性」。進行すると失明につながるなど大変な病気ですが、予防に役立つ成分についての研究も盛んです。今回は、眼科医の難波先生監修のもと、加齢黄斑変性の予防に役立つ成分「ルテイン」について紹介します。


監修者プロフィール
難波 龍人 (なんば たつと)
駒沢なんば眼科院長
医学博士  眼科専門医
2006年に世田谷区駒沢に駒沢なんば眼科を開院。緑内障治療の経験を積み、神経眼科や小児の斜視、弱視治療が専門。地域の子どもから高齢者まで幅広い患者の目の健康を支えている。医院には緑内障や加齢黄斑変性の早期発見・診断・治療に役立つ、網膜の断面を画像化するOCT(光干渉断層計)も導入されている。
駒沢なんば眼科HP


 加齢黄斑変性とは

加齢黄斑変性という病名を聞いたことはありますか?
病名に「加齢」というキーワードがあるほどですので、年齢とともに増えそうなイメージですね。しかし、症状や対策についてピンとくる方は少ないのではないでしょうか。

実は、加齢黄斑変性は日本の失明原因の第4位になっている病気です[1]。50歳以上の人の約1%にみられ、高齢になるほど多くみられます[2]。中途失明の原因のうち、黄斑変性が占める割合は年々増加しています[3]。これは、日本の平均寿命が延びたことにより、高齢の方が増えたことも原因のひとつですが、他にも食の欧米化や喫煙、紫外線やブルーライトなどの光ダメージの蓄積も原因と考えられています[4]。

加齢黄斑変性とは、モノを見るときに重要な、網膜の黄斑という組織がダメージを受けて変性し、視力の低下を引き起こす病気です。黄斑はモノを見るうえで重要な網膜の中心部分のため、この部分が変性すると、モノがゆがんで見える(変視症)、視野の中心が暗くなる・欠ける(中心暗転)、視力が低下するなどの症状が現れます。

加齢黄斑変性には「萎縮型(いしゅくがた)」、「滲出型(しんしゅつがた)」の2種類があります。「萎縮型」は、黄斑の組織が加齢とともに萎縮する現象です。症状はゆっくりと進行しますが、治療のための医薬品はありません。

「滲出型」は、網膜のすぐ下に新しい血管(新生血管)ができて、黄斑がダメージを受ける現象です。新生血管はもろく破れやすいので、血管内の成分が漏れ出て黄斑付近に溜まったり、血管が破れて黄斑付近で出血が起こったりします。

それにより、視野の中心部分がゆがんだり見えなくなるという視覚障害を引き起こします。見え方が大きく変わるのですが、目はふたつあるため、片方の目だけで発症した場合に発見が遅れる場合があり、注意が必要です。

加齢黄斑変性の治療方法は、抗血管新生療法やレーザー照射などがあります[5]。目の中に注射を打ったり、目にレーザーを当てたりするため、患者さんの負担が大きいです。そのため、生活習慣に気を付けて、発症前から予防することが大切です。

網膜の中心部分「黄斑」の役割は

加齢黄斑変性では、「黄斑」部分がダメージを受けると伝えましたが、黄斑とはどのような役割を担っているのでしょうか。黄斑は、目の網膜の中心に存在している部位で、ルテインやゼアキサンチンといったカロテノイドが存在していることによって、黄色い斑(まだら)っぽく見えるため、この名前で呼ばれています。

目に入ってきた光は、角膜や水晶体で屈折し、網膜上で焦点を結びますが、この時の中心部分に当たるのが黄斑です。黄斑には、目を開けている間、常に光が集まってきますが、この光による網膜ダメージを防ぐために、抗酸化作用のあるルテインやゼアキサンチンといったカロテノイドが黄斑に集中しているのです。

黄斑に存在する「ルテイン」とは?

ルテインは、カロテノイドの一種で黄色~橙色をしている天然色素です。体内では黄斑、皮膚、子宮などに存在していますが、40歳を過ぎると黄斑のルテイン密度は減ってしまいます[6]。ルテインは体内で作り出すことができないため、食事から摂取する必要があります。

ルテインが豊富とされているのは、ホウレン草やかぼちゃなど、色の濃い緑黄色野菜です[7]。目の健康維持のためには、ルテインは6mg以上摂取することが推奨されています[8]。しかし、食事からは1日平均1.5mg程度しか摂れていません[9]。

ルテインを多く摂る人ほど、体内のルテイン量が高まることがわかっており[10]、毎日の健康維持のために必要なルテインを摂るためには、サプリメントの活用も有効だと考えられます。

ルテイン量のグラフ

ルテインと加齢黄斑変性の研究を紹介

加齢黄斑変性の予防としてルテインが推奨される一番のエビデンスは、アメリカで行われた大規模臨床試験(AREDSⅡ)です。4,200人もの加齢黄斑変性の患者さんを5年間にわたって追跡したところ、ルテインやゼアキサンチンのサプリメントを摂ることで進行性の加齢黄斑変性のリスクが低くなりました[11]。さらに他の研究でも、ルテイン(6mg)と ゼアキサンチンの摂取で加齢黄斑変性のリスクが57%まで下 がったと報告されています[12]。

他にも、ルテインの摂取による白内障のリスク低下や、コントラスト感度の改善に関する研究結果もあり[13]、患者さんにもサプリメントの提案をしています。

さいごに

目は一度病気になってしまうと、元の視力に戻すことは難しいです。できる限り、発症する前に予防することが大切です。食事に気を付けつつ、足りない分の栄養素はサプリメントを活用していただきたいですね。

もちろん、目のことでわからないことがあればメノコト365をご利用いただき、ご自身の症状で気になることがあれば、眼科医を受診してくださいね。

 

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

 

【参考文献】
[1] Health and labor sciences research grants intractable disease policy research project, Research Report, 2017
[2] 日本眼科学会 http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_karei.jsp
[3] 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究」報告書
[4] 日本眼科学会 http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_karei.jsp
[5] 日本眼科医会 https://www.gankaikai.or.jp/health/51/06.html
[6] Obana A. et al., Ophthalmology. 115(1):147-57, 2008.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18166409/
[7] Aizawa K. et al., Quantitation of Carotenoids in Commonly Consumed Vegetables in Japan. Food Science and Technology Research, 2007; 13, 3, 247-252.
[8] Agszka et al., Dietary Sources of Lutein in Adults Suffering Eye Disease (AMD/cataracts). Rocz Panstw Zakl Hig, 2015; 66(1):55-60.
[9] Nagai N. et al., Association of Macular Pigment Optical Density With Serum Concentration of Oxidized Low-Density Lipoprotein in Healthy Adults. Retina, 2015; 35(4):820-6.
[10] 小沢 洋子 他, 日眼会誌120:41-48,2016。.
http://journal.nichigan.or.jp/Disp?style=abst&vol=120&year=2016&mag=0&number=1&start=41
[11] Age-Related Eye Disease Study 2 Research Group. Lutein + zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-related macular degeneration: the Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) randomized clinical trial. 2013, 309(19):2005-15.
[12] J M Seddon et al., Dietary Carotenoids, Vitamins A, C, and E, and Advanced Age-Related Macular Degeneration. Eye Disease Case-Control Study Group.
JAMA. 272(18):1413-20, 1994.
[13] 河口 良子. ルテインとその機能性. The Vitamin Society of Japan.      89 巻 11 号 p. 537-539.  2015
https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/89/11/89_KJ00010091115/_article/-char/ja/

この記事を書いた人

大江 絵美

薬学博士

岐阜薬科大学薬効解析学研究室に4年間出向し、目のことやビルベリーの健康効果の研究を行ってきました。目のこと、サプリメントの素材についての研究や調査をもとにした情報発信を行っています。

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