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目の症状や病気と予防・治療法

老眼って病気なの?お薬はないの? お薬専門家 原英彰教授が老眼の症状やメカニズムについて解説

老眼の女性の写真

皆さんは、新聞やスマートフォンなどを見るときに、字がぼやける、読みづらいといった経験はありませんか?40歳以上の方で、この症状が現れるのであれば、老眼が原因かもしれません(※1)。

老眼になるとピントを合わせようとして無意識に眼を酷使し、眼が疲れやすくなります(※2)。老眼をそのまま放っておくと、モノが見づらいだけでなく、眼精疲労につながったり、頭痛や肩こりといった症状を感じる可能性があります。

眼が見えなくなる病気として緑内障や白内障などが良く知られていますが、老眼は加齢によって起きる症状の一つです。日本は世界でも有数の超高齢社会を迎えており、これからますます老眼に悩む方が増えていく可能性がありますので、皆さんには正しい知識をもって老眼と向き合っていただきたいです。今回の記事では、老眼の原因や老眼鏡の仕組み、さらに、老眼薬の研究状況について解説していきます。

老眼って病気なの?

歳をとると、耳が遠くなったり物覚えが悪くなったりといった身体の不調が出てきませんか?年齢とともに現れるこれらの症状は、「老化」といわれることが多いですね。中でも、目に現れる老化の症状は「老眼」と呼ばれます。老眼になると、ピントが合わずモノが見えづらいという症状が現れます。特に近い所が見えづらくなるので、文字を読むときや、細かい作業をするときに苦労を感じる方が多いようです。老眼は老化の症状のひとつであり、“病気ではない”のです。

なぜ老眼でピントが合わなくなるの?

皆さんは、なぜ老眼になると近くのモノが見えづらくなるのかご存知でしょうか。老化に伴って皮膚の弾力(ハリ)がなくなるのと同じように、眼の水晶体の弾力がなくなり硬くなってしまうために起こります(※3)。

モノを見る仕組みを詳しく解説します。モノを見るためには、光がカメラのレンズに相当する眼の水晶体という組織を通過し、網膜まで届く必要があります。網膜上でピントを合わせるために、水晶体が重要な役割を担っています(図1)。

老眼の説明図

ピントを合わせるためには、水晶体に近接する筋肉が水晶体の厚みを調整します。水晶体の厚みを変化させることによって、ピントの合った文字や画面を見ることが出来るのです(※1)。

一方で、年齢を重ねるにつれて水晶体が硬くなり網膜上でピントを合わせるのが難しくなってしまいます。老眼になると、ピント調節を行う水晶体を薄い状態から分厚い状態に変化させる調節機能を失ってしまうため、近くのものが見えづらくなるのです

老眼鏡は弱った屈折力(進行方向を折り曲げる機能)をサポートすることで、網膜上でピントが合うように調整してくれます。

老眼はピントが合わないだけではない?

老眼は病気ではないと言いましたが、放っておいても問題がないのでしょうか。答えはNOです。老眼によって水晶体の機能が低下しても、それを支える毛様体筋という筋肉は元気なままです。歳をとっても筋肉が元気なのはいいことですが、一方で水晶体は弾力を失い、硬くなっているために毛様体筋は働きすぎてしまうのです(※4)。その結果、なかなかピントが合わず、眼精疲労のリスクが高まります

さらに、脳は見えないことでストレスを感じて、肩こりや頭痛、酷い場合には吐き気を伴うこともあります(※2)

老眼になっても、老眼鏡を使用しないで無理に目を酷使すると眼精疲労がおこり、このような不調が現れてしまいます。老眼かなと感じたら、眼科医のもとで適切な診察を受けることが大切です。

老眼の薬はあるの?老眼研究の最新動向は?

残念ながら、現在は老眼を治す薬はありません(※1)。そのため、発症してしまうと老眼鏡での視力矯正しか対処方法がありません。しかし、最新の研究で眼を治す点眼薬を開発中です(※5-8)。

そのメカニズムは、水晶体の柔軟性を改善し、弾力を取り戻すというものです。老眼で起こる水晶体の弾力低下は、ジスルフィド結合という架橋構造の増加が原因だと考えられています。ジスルフィド結合はとても強力で、水晶体の弾性に影響を与えます。加齢に伴って結合が増えると、水晶体は固くなり弾力を失ってしまいます。

現在開発中の点眼薬は薬効を発揮する成分が体内で代謝を受けることによって作用する、新しいタイプの薬剤です。このタイプの医薬品は、副作用を軽減したり、効果を持続させるといった特徴があり、現在の新薬開発分野でも注目の最新技術が使われています。

この点眼薬は、点眼後、角膜を通過して水晶体(レンズ)まで到達すると、代謝を受けて効果を発揮します。この活性成分が水晶体内に増加したジスルフィド結合を減少させ、水晶体の弾力を回復させます(図2)

水晶体の柔軟性

また、開発中の治療薬は点眼薬であることから、皆さんが簡単に使用することができ、これまでの研究では視力低下をはじめとする有害な副作用は認められていません。未来の老眼治療薬となる可能性があるのです。

最後に

老眼と向き合うためには、自分にあった適切な老眼鏡を使用すること、さらには目をいたわることが重要です。目に無理な負担をかけず、疲労をためないようにしましょう。日常生活で実践できることとして、連続して本やテレビをみる場合には1時間に10分程度の休憩をとることが挙げられます(※9)。また、市販の目薬で乾燥感を防ぐことや、ピント調節機能を助ける作用を持つ点眼薬の使用は、目のリフレッシュに繋がります(※10)。

老眼は老化に伴い誰しもが起こりうる目の症状です。正しい知識を持って、自分の症状に合わせて上手く付き合っていくことが大切です。自己判断せずに、迷わず眼科専門医のもとを訪ねましょう。

今はまだ老眼の特効薬はありませんが、皆様の悩みを解決できるよう、多くの研究者、企業が努力しています。開発中の医薬品に期待していきたいですね。

※1:日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/health/37/04.html
※2: メガネスーパーHP
https://www.meganesuper.co.jp/kodawari/course/int_03/
※3: http://www.blueflag.co.jp/html/sukoyaka/tsushin_1407.html
※4: http://sv1.gifu-pu.ac.jp/lab/seitaikinou/files/2019/11/7f3c4f6ae18e9b3d85e84355486ef00e.pdf
※5: ノバルティスファーマ Development Update (P. 141-144)
https://www.novartis.com/sites/www.novartis.com/files/2017-01-25-q4-dev-investor-presentation-en-jp.pdf
※6: https://www.eyeworld.org/has-presbyopia-found-encore
※7: https://www.prnewswire.com/news-releases/encore-vision-inc-announces-first-subject-enrolled-in-study-of-topical-treatment-for-presbyopia-300153960.html
※8: https://www.reviewsce.com/ce/presbyopia-eye-drops-are-in
※9: 2019 アンデパンダン 原英彰 『なにはともあれ元気が一番!知って損なし 脳・心・からだ・くすりのお話』 (P. 147-148)
※10:参天製薬HP
https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/hyperopia/index3.jsp

この記事を書いた人

原 英彰

薬学博士/薬剤師

岐阜薬科大学学長。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っています。

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