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目にまつわるお役立ちニュース

見えない世界を見える世界に。「iPS細胞」による網膜再生医療

「見えるということは当たり前のようで、失われたら初めてその尊さを知る」――
そんな言葉が胸に響く時代が、今、大きく変わろうとしています。
iPS細胞という新しい細胞の登場によって、これまで治療が困難だった目の病気に、光が差し込んできたのです。

この記事では、iPS細胞の仕組みから、目の治療への応用、そして最新の臨床研究成果までをわかりやすく解説します。

iPS細胞とは?目の治療への可能性

私たちの体は、さまざまな種類の細胞でできています。たとえば、皮膚の細胞、血液の細胞、そして目の網膜の細胞など、それぞれ役割が違います。iPS細胞(induced Pluripotent Stem cells、人工多能性幹細胞)は、これらのさまざまな細胞に変化できる能力を持っています。iPS細胞は、まるで魔法のような力を持つ細胞です。大人の体の細胞(例えば、皮膚や血液)に、ほんの少しの遺伝子を加えると、細胞はまるで時間を巻き戻したかのように、赤ちゃんの時のように多能性を取り戻し、iPS細胞に生まれ変わります。

iPS細胞のすごいところ

iPSが注目されている理由は、どんな細胞にもなれるということです。目の網膜の細胞はもちろん、体のさまざまな組織や臓器の細胞に変化できます。また、自分の細胞から作れるため、拒絶反応の心配がほとんどないと言われています。iPS細胞は、失明の原因となる網膜疾患の治療に大きな期待が寄せられています。網膜色素変性症は、網膜の細胞が徐々に壊れていく病気で、iPS細胞から作った網膜の細胞を移植することで、視力回復の可能性があります。また、加齢黄斑変性は網膜の中心にある黄斑が加齢とともに変性する病気であり、iPS細胞を使った再生医療が研究されています。iPS細胞は、再生医療の中核となる技術として、様々な病気の治療法開発に役立つと期待されています。

視力回復に光!先進医療申請受理で治療普及へ


2025年2月、神戸アイセンター病院の栗本康夫院長らのグループが、iPS細胞由来の網膜細胞を用いた革新的な治療法で、視力回復への希望の光を灯しました。重い目の病気「網膜色素上皮不全症」の患者3名にiPS細胞から作製した網膜細胞をひも状に加工して移植する臨床研究を実施。その結果、全員の細胞が1年後も定着し、うち1名では見え方の改善が確認されるという画期的な成果を上げたのです。これを受け同グループは、治療の一部に公的保険が適用される「先進医療」として厚生労働省に申請。1月末には受理されたとの連絡があったといいます。もし承認されれば、iPS細胞を使用した治療法として初の公的制度化となり、再生医療の新たな一歩を記すことになります。栗本院長は「承認されれば、治療を広く届けられるようになり、改めて身が引き締まる思いだ」と語り、日本全国の施設での治療実施に向けた準備を進める意向を示しています。

患者にとっては治療費の負担軽減となり、医療機関にとっては治療の普及への道が開かれる——。iPS細胞技術が生み出した可能性が、ついに目に見える形で社会実装される瞬間が訪れようとしています。同グループは将来的に治療そのものの保険適用も視野に入れており、再生医療の未来図がより鮮明になりつつあります。

参考文献
NHKnews iPS細胞から作った目の網膜細胞の移植 「先進医療」に申請
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250203/k10014711221000.html

 

 

この記事を書いた人

山本 エミ

Webライター、編集者。学生時代は両目視力2.0をもちながら、現在は左右の目の視力差が大きい「不同視(ガチャ目)」に悩む日々。現代病である疲れ目など、目の健康に役立つ記事を中心に執筆している。

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