私は網膜色素変性症という進行性の目の病気で正面の視野(見える範囲)が欠けているため、健常者と同じように文字や文章を読むことができません。しかし、最近ではカメラで読み取った文字や文章を音声で確認できる機器や、アプリの開発が進んでいます。今回はそんな機器の一つ『OrCam Read(オーカムリード)』をご紹介します。
私は現在40代で目の病気の進行もあり見え方は全盲に近い状態です。文字だけでなく、人の顔や景色などもほとんど見えなくなってきました。しかし、20歳くらいの頃は視力と視野もまだあり、視覚障がい者の中ではそれなりに見えていたと思います。
当時、私が400ページくらいの単行本を読んだ時には、1日に10ページから15ページ読むのが限界で読み終わるまでに1ヵ月程かかっていました。本が読みたいのに読めない、読めても目への負担が大きい、仕事で書類などが確認できないなどの悩みを抱えている視覚障がい者は多くいらっしゃいます。そんな視覚障がい者の悩みを解決する方法の一つが、『OrCam Read』のような音声で文字を読み上げてくれる視覚支援機器の存在です。
イスラエル発の企業が開発
『OrCam Read』を開発したのは、アムノン・シャシュア教授とジブ・アビラムさんが2010年に共同で起業したイスラエルのエルサレムにあるオーカムテクノロジーズという企業です。
オーカムテクノロジーズは機械学習の指導者とソフトウェア・ハードウェア設計の専門家、電気技術者、視覚障がい者を含む顧客サービスチームにより構成されており、視覚障がい者、読書困難者など読めない、読みにくい人々の生活を向上させるウェアラブルなプラットホームに先駆的技術を組み込んだ人工視力の開発と応用に取り組まれています。
そして、開発の指揮をとったアムノン・シャシュア教授はカメラに映る情報を解析し警告音を発して事故を防止する自動運転技術を開発したモービルアイ社の共同創立者でもあり『OrCam Read』はこの自動運転技術を応用して作られています。
AI視覚支援機器『OrCam Read』ってどんな機器
この機器は、視覚障がい者、視力低下にお悩みの高齢の方、発達障害・学習障害・ディスレクシア(発達に遅れはないのに文字の読み書きが困難な障害)の方のQOL(生活の質)の向上を目指し開発されたAI視覚支援機器です。
小型で持ち運びしやすく、使用時は手で持ち(長時間使用する際は付属の専用スタンドも利用可能)、レーザーで示した範囲を撮影し範囲内にある文字を音声で読み上げてくれます。
ボタンも4つだけなので手動での操作も簡単な上に、「ヘイ、オーカム」と声をかけることで音声コマンドが発動、日付の確認・音声の読み上げスピードの調節・音量の調節などが操作なしで変更できます。
文字認識能力について
実際に『OrCam Read』をさまざまな場面で使用して文字認識能力を確認してみました。
●郵便物
家に届く郵便物が溜まってしまっていたので『オーカムリード』で仕分けしてみました。どこから届いたのか、どのような内容なのかは8割以上把握できたのでうまく仕分けることができました。
●書類
職場でもこれまでにもらった書類の整理を兼ねて読ませてみるとこちらも郵便物と同じくそれなりに内容が把握できたので、うまく整理できました。
●買い物
コンビニエンスストアでおにぎりやパン、アイスクリームや飲み物などを読ませてみると、パッケージを読ませた場合は半分くらい、プライスカードはさらに高い確率で読んでくれました。私は少しは見えているので、これだけ情報が得られれば一人で買い物ができそうです。
●漫画・小説
『OrCam Read』は横書きの文章を読むのは得意ですが、縦書きは苦手なので小説や漫画は残念ながら読むことができませんでした。これからの進化に期待したいです。
●手書き文字
印刷された文字よりも読んでくれる確率が低かったです。あまり手書き文字の読み上げには向いていないと感じました。
※あくまで私の主観であり、全ての視覚障がい者が同じように活用できるとは限りません。
日常生活用具給付制度が利用できる
『OrCam Read』は日常生活用具(障がい者が日常生活を自立した状態で円滑に過ごすために必要な機器や用具)として認定されています。
日常生活用具給付制度とは、そのような機器や用具の購入を公費で助成(一部自己負担金が必要)する制度です。障がい者が利用する各種の用具や機器は、特殊な上に高額になることが多く、それらの用具や機器が使えるかどうかで日常生活の質が大きく左右される障がい者に対して、各市区町村の決定で支給されるものです。
この制度を利用するには、障害者手帳を取得する必要があります。障害があっても、障害者手帳を取得していない場合には対象にはなりません。障害者手帳の取得・日常生活用具給付制度など詳しくはお住まいの市町村の障害福祉課へお問い合わせください。
最後に
私は40歳を過ぎてから急激に網膜色素変性症が進行し、今までできていたことができなくなってきています。文字を読むことはその中の一つで、さまざまな場面で家族や職場の同僚に何が書いてあるのか教えてもらう回数が増えてきたときに、この機器のことを知りました。人にお願いするのは気が引けることも多いのですが、『OrCam Read』のおかげで一人で簡潔できる場面が増えました。もし見えない・見えにくいことで悩んでいる方は一度機器を試してみてはいかがでしょうか。
引用画像:ケージーエス株式会社