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目にまつわるお役立ちニュース

歌舞伎におけるにらみの神髄―伝統芸能における目の役割

日本を代表する伝統芸能の一つである歌舞伎。その舞台では、俳優の表情や所作が重要な役割を果たしていますが、中でも「にらみ」と呼ばれる凝視の演技は欠かせません。強烈な視線を放つこの「にらみ」は、単なる目の動きではなく、歌舞伎の神髄ともいえる深い意味を持っています。

特に目の役割は重要で、目は感情の窓口とされ、演者の精神性や芸の高さを表現する要素の一つでもあります。歌舞伎の「にらみ」には、演技を際立たせる役割に加え、観客の心を掴み、場面に緊張感や余韻を与える力があります。

この記事では、そんな歌舞伎の歴史や、伝統芸能における目の役割について詳しく解説していきます。

 

日本の伝統芸能「歌舞伎」の起源と歴史


歌舞伎は、日本の代表的な伝統芸能であり、その起源は江戸時代初期にさかのぼります。1603年に徳川家康が江戸幕府を開き、都市部での商業と娯楽が発展する中で、歌舞伎もも生まれ発展しました。歌舞伎は、歌(うた)、舞(まい)、技芸(わざ)を組み合わせた演劇形式で、当初は神話や歴史に基づく演目が主流でした。

初期の歌舞伎は、主に男性が女性役を演じる「男歌舞伎」が一般的でした。その後、17世紀後半から18世紀にかけて、女性が登場する「女歌舞伎」も登場しました。歌舞伎は、俳優の動き、台詞、音楽、舞踊、そして華麗な衣装や化粧など、多彩な要素を組み合わせて観客を楽しませます。

18世紀には歌舞伎の台本が出版され、文学的な価値も高まりました。
明治時代の近代化の波に押され、西洋の演劇やエンターテイメントが台頭しましたが、歌舞伎はその伝統を守り続けました。

20世紀に入ると、歌舞伎は再び人気を取り戻し、国内外で高い評価を得るようになりました。現在では、歌舞伎は日本の重要な文化遺産の一つとして、世界中で愛されています。俳優の技術や舞台の演出も進化し、伝統と現代の融合が見られますが、その根幹には古典的な要素が息づいています。

現代でも、歌舞伎座をはじめ東京を中心に上演されており、「椿姫」「成れ果てた賤が花」など古典の人気演目が継承されています。

 

「にらみ」と「見得」の違い


歌舞伎における「にらみ」と「見得」は、演劇の上で重要な要素ですが、微妙な違いがあります。

「にらみ」は、舞台上で俳優が他の登場人物や観客を睨みつけることを指します。
「見得」の種類のひとつで、成田屋を継承する歌舞伎の一門、市川團十郎家にのみ伝わる技法です。 江戸時代には、厄除けや無病息災のご利益があると信じられていました。 「にらみ」は片目が寄り目、片目が中央を向く独特な表情です。
登場人物の内面や緊張感、舞台上の緊迫した状況を観客に伝えることができます。

「見得」は、俳優が特定の姿勢や振る舞いをすることで、登場人物の性格や社会的地位を表現する手法です。「見得」は、俳優が衣装や身のこなし、話し方などを通じて、登場人物の身分や立場を観客に示す役割を果たします。これにより、登場人物の背景や関係性を理解しやすくし、物語の展開に深みと余韻を与えることができます。

「にらみ」に似た歌舞伎の演技技術の中には「斜視」がありますが、両者には微妙な違いがあります。「にらみ」は強い視線を使って相手を睨みつける演技技術であり、感情や意図を強調するために使用されます。一方、斜視は目の位置や形を微妙に変化させることで、特定の感情や状況を表現する演技技術です。両者とも、歌舞伎の舞台上で登場人物の内面を表現するために重要な役割を果たします。

精神性を表す目の演技の「にらみ」と、優雅で美しい身のこなしによる視覚的な魅せ方である「見得」。歌舞伎の舞台では、この2つの要素が緻密に絡み合うことで、その魅力を高めています。

 

歌舞伎の独特なポーズに込められた意味とは


歌舞伎には、独自のポーズや身振りが数多く存在し、それぞれが独特の意味や象徴を持っています。

たとえば、「手を組む(お手合わせ)」というポーズは、両手を前に組んで立つ姿勢であり、舞台上での挨拶や礼儀を示します。このポーズは、登場人物の敬意や礼節を観客に伝えるために使用されます。

また、「天井を指差すポーズ」は、登場人物が何かを指し示す際に用いられます。天井を指すことで、観客にその場の状況や舞台の空間を示し、物語の展開を押し進めていきます。

さらに、「両手を高く掲げるポーズ」は、喜びや祝福を表現する際に用いられます。登場人物が何かを祝う場面や喜びを感じる場面で、両手を高く掲げることでその感情を強調します。

ほかにも、「手刀を構えるポーズ」は、戦闘シーンや勇壮な場面で使われます。登場人物が敵に立ち向かう様子や、決意を示す場面で手刀を構えることで、その強さや勇気を表現します。

そして、「一つ手を上げるポーズ」は、決断や命令を表す場面で用いられます。登場人物が重要な決定を下す際や、目下に指示を出す場面で、一つ手を上げることでその権威や決定力を示します。

こうしたポーズや身振りは、歌舞伎の舞台上で物語や登場人物の感情や状況を視覚的に表現するために重要な役割を果たします。役者の表現力と技術によって、物語の深みや魅力をより豊かに表現されます。

目は演者の精神性を表す窓口であり、伝統芸能における目の役割はきわめて大きいと言えるでしょう。こうした「にらみ」と「見得」に注目しながら、歌舞伎の舞台を鑑賞すれば、その奥深い魅力が楽しめるはずです。日本の伝統文化が凝縮されたこの芸術に、心を奪われることでしょう。歌舞伎の上演を是非ご覧になり、役者の芸の高さと美意識に触れてみてください。

 

この記事を書いた人

山本 エミ

Webライター、編集者。学生時代は両目視力2.0をもちながら、現在は左右の目の視力差が大きい「不同視(ガチャ目)」に悩む日々。現代病である疲れ目など、目の健康に役立つ記事を中心に執筆している。

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