文字の
サイズ

目の症状や病気と予防・治療法

角膜移植 ・再生医療の未来について

子どもたちの元気な姿

角膜治療の第一人者である慶應義塾大学 坪田一男名誉教授。1990年代に独自のアイバンクを立ち上げ、今日までに様々な形でアイバンクの啓発活動を続けられています。2008年より継続開催されているアイバンクミュージカル「パパからもらった宝もの」は坪田名誉教授が原作を手掛けられ、15年。今年も東京・札幌で公演されます。
IPS細胞の再生医療の研究が進む中、アイバンクの現状についてお話しを伺いました。

坪田一男先生画像

坪田一男(つぼたかずお)慶応義塾大学名誉教授
1980年慶應義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。
85年渡米、87年ハーバード大学フェローシップ修了。
1990年に東京歯科大学眼科へ赴任、新しいアイバンクシステムを導入し角膜移植件数を急伸させ、日本屈指の角膜治療施設を実現する。
角膜移植およびドライアイ、屈折矯正手術分野における第一人者。
1999年には再生医療の先駆けとなった「角膜上皮のステムセル移植術」を発表し注目を集めた。
近年はバイオレットライト技術ならびに特許を用いた子どもの近視進行抑制のための研究を続けている。

角膜移植とは

角膜移植 ミュージカル

伊藤有輝子 わかさ生活インタビュアー(以下 伊藤):今回のミュージカルのテーマでもある「角膜移植」というのはどういうものでしょうか。私も含め知らない方も多いと思いますので教えていただけますか?

坪田一男名誉教授(以下 坪田):角膜という目の透明の膜が濁ってしまったり、形がゆがんでしまったために、見えづらくなったり、失明にいたる方がいらっしゃいます。その場合、角膜を透明にしたり形を整えたりすることは点眼薬ではできません。ドナーから健康な透明の角膜を提供いただき、全て入れ替えることを角膜移植といい、視力を回復させるのが目的の治療です。

伊藤:角膜の病気はどのような方がなってしまうのでしょうか。

坪田:事故や怪我で誰でも起こりうることですし、または遺伝性の病気(フックス角膜内皮変性症、円錐角膜)進行性の病気など色んな理由でおこることがあります。

伊藤:健康と思っている者もなる場合があるのですね。

坪田:はい、誰にでもおこりうることなので皆さんにも知っていてほしいですね。

アイバンク活動の現状

伊藤:また角膜移植の活動としてアイバンクを立ち上げられていますが、どのようなものなのでしょうか?

坪田:角膜を提供するシステムです。お亡くなりになった方(ドナー)から角膜をいただき、アイバンクコーディネーターが橋渡しをし、角膜移植が必要な患者さんに届けます。

伊藤:アイバンクの登録者やドナーは増えているのでしょうか?

坪田:それぞれの病院や医療機関で登録しているので正確な数値は把握できていないのです。最近はアメリカのアイバンクからの角膜提供も増えています。日本に限った角膜ですと、待機期間が6ヵ月〜1年のところ、アメリカのアイバンクを活用すると待機期間が1ヵ月〜2ヵ月程になります。アメリカでの角膜移植は日本よりずっと環境がよいですね。

伊藤:先生はミュージカルの原作や、アイバンクなど角膜移植を広める活動を続けておられますが、今後についてはいかがでしょうか。

坪田:わかさ生活さんにもご協力いただいていますし、広まっていくと信じたいですね。

 

再生医療の期待

伊藤:角膜移植以外にも再生医療も期待されていますが現在どのような状況でしょうか?

坪田:京都大学の山中伸弥先生が開発されたIPS細胞から、角膜内皮細胞という細胞を、移植する方法が慶應義塾大学医学部眼科発ベンチャーの株式会社セリュ―ジョンでスタートして2022年第1例が始まりました。とても画期的なことです。

伊藤:結果はいかがでしょうか?

坪田:今のところ順調です。本年3月の再生医療学会で発表しましたが結果順調です。

伊藤:再生医療が発展すれば角膜の病気で視力を失った方の治療方法として期待が持てますね。

坪田:1例始まったばかりですが今後の治療法としては期待が持てますね。

 

新たな目の健康課題 子どもの近視について

子どもが外で遊ぶ様子

伊藤:医療の進歩と逆に子どもたちの視力の低下が社会問題の1つにもなっていると聞いているのですが。今回もミュージカルの中で特別講演をいただくんですよね。

坪田:そうですね、講演では、「子どもを近視から守ろう」という話をします。

伊藤:子どもの近視問題はスマホ・タブレットの影響が大きいのでしょうか。

坪田:それもありますが、それだけではないんです。近視はスマホを出る前から増えています。外遊びをしなくなったことが原因です。

伊藤:外に出て遠くを見ることが大切なのでしょうか?

坪田:遠くを見ることより外にいること自体が大切です。バイオレットライトという外でしか浴びない光があります。バイオレットライトがないと目の血流が悪くなって近視が進んでしまうことがわかりました。目を足に例えると、本を読んだりスマホを見たりすることは正座しているようなもの。正座していると血の巡りが悪くなりしびれて動けなくなりますよね。近視は足がしびれている状態と同じです。目がしびれています。目がしびれていると目のたんぱく質が悪化もします。運動して血の巡りをよくすることで、近視から守ることに繋がります。

伊藤外で遊ぶことが近視抑制に繋がるのですね。目からうろこです!!大人にも影響しますか?

坪田:大人も多少影響しますが、成長期の子どものうちに外遊びをすることが大切です。大人は家に居続けることで鬱になってしまうことがあります。大人の方でも外に出かけて血の巡りをよくして、人と話したり繋がっていくとよいですね。

 

アイバンクミュージカル制作の想い

アイバンクミュージカル パパからもらった宝もの

伊藤:最後に5年ぶりの「パパからもらった宝もの」公演にあたってメッセージをお願いします。

坪田:2007年に妻と私の両方の父が亡くなりました。既に私はアイバンクに取り組んでいましたが実父は献眼などすると三途の川を渡れなくなるんじゃないかという考えでした。また義父は「私が死んだら一男君に角膜をあげるよ」とそれぞれの意思がありました。
角膜移植を助けたい方はドナーになる権利があるし、ドナーになりたくなければならない権利もある。角膜移植も同じでしてもらう権利、してほしくない権利もあり現代の基本的な考え方です。それをうまく表現したかったことがミュージカルの原作の基本的なきっかけです。更に、見える喜び、生きる喜びを表現しました。「パパからもらった宝もの」は「パパからもらった角膜」であり、父から角膜をいただいてはいませんが、自分の意思を表明するという宝ものをいただきました。長年私が活動しているのは父のおかげでもあります。
角膜移植は見返りもなく助け合う、生きていることは素晴らしく、見えることはうれしいことなんだとミュージカルを通じて感じてもらえるだけで嬉しいです。

伊藤:そうですね、沢山の方に見ていただき角膜移植、アイバンクのことが伝わると嬉しいですね。先生、本日はありがとうございました。

この記事を書いた人

メノコト365編集部

目の健康に関するあらゆる情報を発信しています。子どもたちが健やかな目で生活できるように、小さなうちから正しい健康習慣を身につけてもらうための健育イベントを開催するなど、目の健康について意識を高めるきっかけになることを願い様々な活動をしています。

こちらの記事もおすすめ