私は網膜色素変性症という目の病気で、徐々に視力低下と視野欠損(見える範囲が狭くなっていく症状)によりほとんど見えていません。
外出する時には白杖や点字ブロックを頼りに歩いていますが、道に迷うことや危険な目に合うこともよくあります。
私と同じような思いをしている視覚障害者の方はたくさんいらっしゃいます。
そんな視覚障害者の「移動」を、技術で支援しようと開発が進められている「AIスーツケース」を紹介します。
増えている視覚障害者
私たちが日常生活の中で得る情報の内8割以上は目から得ていると言われています。地図を確認して目的地に向かうことや人や障害物を避けて歩くことなど、視力に問題がない方は当たり前にできることでも、視覚に障害があるとそうはいきません。
歩き慣れている道でも迷子になることや、人や障害物にぶつかることはよくあります。
私と同じように視覚に障害がある方はたくさんいらっしゃり、2007年の日本眼科医会の推定で約164万人、さらに高齢化やデジタル化などの環境変化により2030年までには200万人に達すると予測されています。(日本眼科医会研究班報告2006〜2008)
視覚障害者の「移動」を支援するもの
今後もっと増加すると予測されている視覚障害者。
現在視覚障害者の移動を支援するものとしては「白杖」「盲導犬」「点字ブロック」などがありますが、それだけでは決して安全とは言えません。
そんな視覚障害者の「移動」をもっと支援できないかと、米国カーネギーメロン大学の客員教授で視覚障害者でもある工学者・浅川智恵子さんが考案し、開発が始まったのが「AIスーツケース」です。
「AIスーツケース」とは
見た目は市販のスーツケースですが、中身は視覚障害者を誘導するAIロボットです。
各種センサーや画像認識用のカメラ、通信機能などを搭載し、移動を支援する機能と行動やコミュニケーションを支援する機能があります。
移動支援では、目的地までの最適ルートを探索し、障害物を認識し避けながら音声や振動により目的地まで案内してくれます。
また行動とコミュニケーションの支援では、周囲のお店の案内や買い物の支援、映像から知人を認識する、お店などで列に並ぶことができるようになる機能が搭載されています。
更に、ソーシャルディスタンスの確保やマスク着用時でも映像から知人を認識するという新型コロナウイルスによる影響にも対応できるようになっています。
実用化に向けて
現在「AIスーツケース」は浅川さんが発起人となり立ち上げた一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム(技術提供/アルプスアルパイン・オムロン・清水建設・日本IBM・三菱自動車)を中心に進められています。
そして、浅川さんが館長を務める日本科学未来館や総合商業施設、空港で実証実験が行われており、社会福祉法人日本点字図書館と公益財団法人日本盲導犬協会も参画され、実用化に向けて改善が繰り返されています。
まとめ
「メノコト365」ではこれまで夜盲症の方のための機器、網膜に安全なレーザを当てることで映像を映す機器、周りの状況や文字を音声で教えてくれる機器などたくさんの視覚障害者を支援してくれるアイテムを紹介してきました。
私の目の病気、網膜色素変性症は治療法がまだ発見されていないので、こういった技術による支援がどんどん増えていることがとても嬉しいです。
今回紹介した「AIスーツケース」のような技術が進歩すれば視覚障害があっても気にせず外出できる未来が来るかもしれませんね。
参考
ロボスタ
日本科学未来館で「AIスーツケース」を体験してきた 自動運転の最新技術で視覚障がい者の移動を支援 ネックスピーカーと連動
https://robotstart.info/2022/07/19/miraikan-ai-suitcase.html