ここ数年の電子機器の普及とともに、私たちの生活はとても快適になりました。しかしその一方で、パソコンやスマートフォンの使い過ぎが原因と考えられる目や体の不調も多くなりました。これらの不調は眼精疲労が原因かもしれません。
眼精疲労も、ほうっておくと重症化する可能性があります。多くの人が悩んでいるにもかかわらず、なぜ眼精疲労になるのか、どのように治療するのかを知っている人は多くありません。どうして起こるのか、治療方法としての点眼薬にはどのようなものがあるかを紹介します。
眼精疲労っていったい何?
現代社会では仕事のためにパソコンやスマートフォンが必要となり、子どもたちはゲーム機で遊ぶことが以前と比べて多くなりました(※1)。それに伴い、眼精疲労という言葉を耳にする機会も増えたと思いますが、そもそも眼精疲労とは一体何でしょうか?
眼精疲労とは、目を使う仕事を続けることによる目の痛み・かすみといった症状や頭痛・肩こりといった全身性の症状が現れ、休息をとっても回復しない状態のことをいいます(※2)。
眼精疲労はどうして起きるの
眼精疲労を知るためにまず目の構造を理解しましょう。人の目はよくカメラに例えられます (図1)。網膜がフィルム、水晶体がレンズの役割を果たすことで物を見ることができます(※3)。
カメラと同じように網膜に映像を結びつけることがきれいにものを見るため必要になるのですが、そこで重要な役目を果たしているのが水晶体です。水晶体の厚さを調節することで網膜に正常に像を結びつけることができます。この水晶体の厚さは毛様体筋と呼ばれる筋肉によって調節されます(※4)。遠くを見るときには、毛様体筋がゆるみ水晶体は薄くなり、逆に近くを見るときには毛様体筋は収縮し水晶体が厚くなります(図2)。
では、パソコンやスマートフォンを長い間見続けると筋肉はどうなってしまうでしょう?
近くのものを見るため毛様体筋の緊張状態が続くことになります。さらに目の周囲には目を支えるための筋肉 (外眼筋) が存在しています(※5)が、近くを見続けるために、この二種類の筋肉が働き続ける必要があります。これらの筋肉の疲労が積み重なることで最終的に眼精疲労の症状が現れます。
眼精疲労でどういった症状が出るの?
実際に眼精疲労になるとどのような症状が現れるのでしょうか。毛様体筋や外眼筋に疲労がたまってしまうとこれらの筋肉の働きが低下しピントの調節がうまくいかなくなります。その状態でも頑張ってピント調節をしようとするため目の痛みやかすみが起きてしまいます(※6)。
さらに悪いことに、文字が見にくくなってしまったからといってパソコンやスマートフォンの画面に顔を近づけてしまうと悪循環に陥ってしまいます。顔を画面に近づけていると無意識のうちに前傾姿勢になります。そうすると、今度は肩の筋肉にも力が入り続け、肩こりや首の痛みなど全身の症状にもつながっていってしまいます。さらにはこれらの症状がストレスとなり精神面にも影響を与えかねません(※6)。
眼精疲労にどう対処する?
眼精疲労に対してどのように対処をしていけばよいのでしょうか。
まずは眼精疲労を予防する意識付けが大切です。パソコンやスマートフォンを使用する際には適度に休憩をはさみ、遠くの風景を見ることで筋肉の緊張を解いてあげることが疲労感の緩和につながります(※7)。また目の周囲を温めることも有効です。温めたタオルを目にのせることで血液の循環が良くなり筋肉がほぐれます(※7)。
加えて、メガネを使用することも大切です。ピント調節がうまくいかないことが眼精疲労の原因の一つですので、自分に合ったメガネを使うことで疲労感を抑えることができます。
また、予防という観点では、食生活を意識することも大切です。最近の研究で目に良いとされるビルベリーやクチナシのような天然物の成分が目の疲労感の緩和に効果があることが報告されています(※ 8, 9)。通常の食事に加えて、不足する栄養素をサプリメントで補給することが眼精疲労の予防に重要です(※10)。
しかし、いくら意識しても眼精疲労を感じたり、症状が改善しないことがあります。そんな時には目薬を使用しましょう。製薬会社では眼精疲労を改善するための目薬が開発されています。
① 毛様体筋の緊張をほぐす目薬(ミオピン点眼液)
毛様体筋の緊張状態が続き、水晶体の厚さを調節する機能が低下すると眼精疲労が生じてきます。この目薬は、毛様体筋の緊張状態をほぐし、調節機能を改善することで眼精疲労を緩和させます。
② 栄養分を補給する目薬(サンコバ点眼液)
食生活の話の際に栄養分を補給することが重要であることをお伝えしました。この目薬は、ビタミンB12を含んだ目薬です。毛様体筋の調節にはエネルギーが必要になりますが、この目薬を点眼することでビタミンB12がエネルギー産生を増加させる手助けをし、眼精疲労を改善します。
③ ドライアイを改善する目薬(※11)
パソコンやスマートフォンを長時間使用し目を酷使すると、ドライアイも進行していきます(※9)。ドライアイが進むと涙液層が壊れてしまい、光が不規則に目に到達することになります。こうなると、ピントを合わせようと毛様体筋がさらに働き眼精疲労が進行していきます。
メノコト365でドライアイの話をした際にもいくつかの目薬を紹介しました。定期的に目薬を差し潤いを与えることでドライアイを改善することも眼精疲労に効果的です。
▼ドライアイの治療薬についてはこちら
自分の涙に合わせよう!ドライアイ治療薬の選び方をお薬専門家原英彰教授が解説
処方された薬は適切に使用することが大切
電子機器の発達によって生活が豊かになってきましたが、その一方で機器の使用による体の不調で悩む人も多くなってきました。不調の代表である眼精疲労は目のつらさだけでなく、そこからくる肩こりなどの身体的不調、倦怠感のような精神的不調につながります。これらの症状が出ないよう日々意識した生活をすることが大切です。また、これらの症状がひどくなる前、「あれ?」と思ったときには病院で診察を受け、薬が処方されたら適切に使用することで眼精疲労が良くなることでしょう。
【参考文献】
_______
1 内閣府 平成30年度青少年のインターネット利用環境実態調査
2 日本眼科学学会
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_gansei.jsp
3 CCS株式会社
https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color/vol24.html
4 参天製薬
https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/selfcheck/eyestrain/index4.jsp
5 みやた眼科
https://www.miyata-ganka.com/asthenopic
6 第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/
7 メガネスーパー
https://www.meganesuper.co.jp/content/ganseihirou2/
8 Y Ozawa et al. Bilberry Extract Supplementation for Preventing Eye Fatigue in Video
Display Terminal Workers. J Nutr Health Aging. 2015
9 梶田雅義,海貝尚史,仲野隆久ら.クロセチン高含有クチナシ抽出物による眼精疲労
改善効果.視覚の科学.2007; 28: 77-84.
10 湧永製薬
http://www.wakunaga.co.jp/health/month/post_88.html
11 メノコト365 ドライアイ
/magazine/dryeye-remedium/
インタビューフォーム PMDAより
ミオピン点眼薬(ネオスチグミンメチル硫酸塩)、サンコバ点眼液(ビタミンB12製剤)