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発達が気になる子どもにビジョントレーニングが有効な理由を北出勝也先生に聞いてみた

最近、日本でもようやく認知され始めたビジョントレーニング。しかし一般の方にはまだなじみが薄く、スポーツ選手が自分のパフォーマンスをさらにあげるために活用しているものと思われている方が多いのではないでしょうか。

しかしビジョントレーニングで期待できる効果は、それだけではありません。発達が気になる子どもに対して視覚機能を引き上げることで、勉強や運動をスムーズに行えるようになることが期待され、活用されているのです。

実は、欧米では古くから視覚機能の大切さが認識されていて、子どもの視覚機能の検査方法も日本とは大きく異なるそうです。そこで、日本のビジョントレーニングの第一人者である北出勝也先生に、日本とアメリカの違い、子どものためのビジョントレーニングについて伺いました。


北出 勝也(きたでかつや)先生

米国の大学院にてオプトメトリスト(※)資格を取得。1999年に帰国し、視機能トレーニングに取り組む、日本のビジョントレーニングの第一人者。現在は、プロスポーツ選手の指導をはじめ、学校での普及活動にも取り組んでいる。ビジョントレーニングに関する本を、数々執筆。

※欧米先進国を始め、アジア・アフリカなどの多くの国で国家資格として認められている視覚機能検査・訓練士


子どもの視覚機能に関する認識が大きく異なる、アメリカと日本

大江編集長の写真

大江編集長(以下、大江):北出先生は20年以上も前にアメリカでビジョントレーニングについて学ばれ、その後約20年にわたって日本での普及活動に努めてこられたわけですが、子どもに対するビジョントレーニングにおいて日本とアメリカの違いを教えていただけますか?

北出勝也先生(以下、北出):まずアメリカでビジョントレーニングを行えるのは、オプトメトリストという国家資格を有する人です。

眼科医は目の病気の治療をしますが、オプトメトリストは視覚機能の検査とトレーニングを担当します。

大江:子どもの視覚機能に関していうと、オプトメトリストはどんな役割を担っているのでしょうか?

北出:日本の子どもは、視覚に関する検査というと主に視力測定のみで、各学校の養護教諭などが行うのが一般的かと思います。

しかしアメリカの子どもは視力測定に加え、「眼球の動き」や「認知力」も調べるんです。それをオプトメトリストが行います。

そして、眼球の動きや認知力など、視覚機能に課題がある子どもに対してビジョントレーニングを行い、一定のレベルまで引き上げる。この一連の流れが、オプトメトリストの主な仕事ですね。

大江:視覚機能を一定のレベルに引き上げることが必要というわけですか?

北出:視力が悪ければ日常生活に支障をきたしますから、一定レベルまで見えるようにメガネなどで矯正しますよね。視覚機能も同じだと思っていただければ分かりやすいかと思います。

視覚機能と視力は違う!ビジョントレーニングの役割とは

北出勝也先生インタビュー時の写真

大江:それだけ大切な視覚機能なのに、日本では目がいいかどうか=視力検査の数値ではかるもの…というイメージがまだ強いですよね。

北出:そうですね。子どもたちが基本的に行うのが視力検査なので、ある意味しかたないとは思うのですが…。

でも、まずは視覚機能と視力は違うものと認識していただきたいですね。

大江:視力は見えるかどうかですよね。では視覚機能とは何でしょうか?

北出:ビジョントレーニングでいう視覚機能とは、「見る(入力)」→「それが何かを判断する(情報処理)」→「判断に沿った行動をする(出力)」という一連の行動を指します。

例えば「本を見て(入力)→文字を認識(情報処理)→読む(出力)」、音読ひとつとっても、この機能を使っていますよね。

大江:確かに、そうですね。

北出:視覚機能が弱いことで、音読がスムーズにできない場合がある。そのためビジョントレーニングで視覚機能を一定レベルまで引き上げる。ビジョントレーニングには、こうした役割もあるんです。

日本でも子どもたちのためにビジョントレーニングが必要であることを実感

大江:北出先生は20年ほど前から日本でビジョントレーニングの普及活動をされていますが、当時はどういう状況だったのでしょうか?

北出:今よりもっと「ビジョントレーニング」は知られていませんでしたし、「視覚機能」の知識をもっている人もほとんどいませんでしたね。

だから、広めるといっても何から始めたらいいのか…といった感じでした。

そんな状況で、実は最初に興味を持ってくださったのは、お子さんの発達を心配された親御さんだったんです。

大江:お子さんの発達を心配されたというと?

北出:小学校にあがったお子さんが、学校の先生から「黒板を写すのが遅い」「漢字の左右が逆になる」などの指摘を受けて困っていた方でした。

最初は子どもの理解力が不足しているのかと親が勉強を教えてみたり、子どもの取り組み不足のせいかと子どもを叱ってみたり励ましてみたり…。いろんなことを試されたのですが、一向に解決しない。

おそらく、わらにもすがる思いで、私のところにきてくださったんだと思います。

大江:そのお子さんに対して、先生は何をされたのでしょうか?

北出:まずは、視覚機能のチェックをしました。アメリカでオプトメトリストが行う一連の「眼球検査」や「認知力」のテストですね。

そのお子さんの場合、やはり視覚機能が弱いことが原因だと分かりましたので、ビジョントレーニングを開始したわけです。

大江:そのお子さんは、どうなりましたか?

北出:トレーニングを3ヵ月ほど続けてくださった結果、授業がスムーズに受けられるようになり、漢字テストの点数も50点くらいだったのが90点近く取れるようになったんです。

大江:それは、喜ばれたことでしょう!

北出:はい! 私もアメリカで学んできたことは間違っていなかった。他にも多くの人が視覚機能の問題で悩んでいるはず。一人でも多くのお子さんの力になりたいと、今も活動を続けています。

ビジョントレーニングをもっと広めて、子どもたちを笑顔にしたい

ビジョントレーニング公演中の北出勝也先生の写真

大江:先生の活動の原点は、発達が気になるお子さんを助けたいという思いなんですね。

北出:はい。視覚機能が不十分なお子さんは、勉強も運動も人より何倍も苦労しているのだと感じています。中には、いくら努力してもうまくいかないから自分はダメなんだ…と落ち込んで、やる気さえ失ってしまう子どももいます。

そうならないためには、周りの大人がなるべく早く「見ることに問題があるのかも?」と気づいてあげることが大切です。そして早めに専門家に相談してもらいたいんです。視覚機能の検査や指導をする場は、少しずつですが増えていますので。

大江:でも、今の日本ではそのことに気づける大人が少ないですよね…。

北出:そうなんです。だから私は指導やトレーニングだけでなく、ビジョントレーニングの普及講演活動を、学校や幼稚園といった主に教育現場の先生を対象に行っているんです。

大江:先生方の反応はいかがですか?

北出:ビジョントレーニングがお子さんにどんな変化を与えるのかを知っていただくことで、おおいに興味をもってくださいます。最近は、ビジョントレーニングについて関心をもってくれる学校の先生が増えてきて、学校でビジョントレーニングを始めようという動きもあります。

日本には資格制度がまだありませんが、それだけに普及させやすい環境にあるともいえるので、ビジョントレーニングをさまざまな形で正しく広めていければと思っています。

「視覚機能の勉強」となると一般の方には難しいかもしれませんから、「ビジョントレーニングというものがある」ということを、まずは知ってもらいたいですね。

大江:そうですね! ビジョントレーニングを広めるお手伝いの意味もこめて、メノコト365では北出先生に監修していただいた「ビジョントレーニング」を数々紹介しています。気になった方は、チェックしてみてください。

そして「ビジョントレーニングの大切さ」を、ぜひ周りの方にも伝えていただければと思います。

 

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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

この記事を書いた人

大江 絵美

薬学博士

岐阜薬科大学薬効解析学研究室に4年間出向し、目のことやビルベリーの健康効果の研究を行ってきました。目のこと、サプリメントの素材についての研究や調査をもとにした情報発信を行っています。

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