近年、世界的に近視の有病率が増えています。日本でも子どもの近視は増加傾向にあり、文部科学省の平成30年度の調査では、小学生の34.10%、中学生の56.04%、高校生の67.23%が視力1.0未満と報告されているほどです。
近視に関する多くの研究が進む中、日本で近視研究に取り組む慶應義塾大学医学部、眼科医である坪田一男教授らの研究チームは、クチナシ由来の色素成分クロセチンが、近視の進行を抑制する可能性を示しました。
坪田一男教授のこれまでの研究内容と、今回発表した論文(※1)について紹介します。
これまでの近視研究で分かった近視を抑制する遺伝子「Egr-1」
坪田一男教授は、眼科医として近視対策に取り組んでおり、これまで多くのレーシック手術を行うとともに、レーシック手術の安全性を示す論文も発表しています。また、最近では、近視の子どもに睡眠の質の低下がみられることや、太陽光に含まれるバイオレット光が近視を抑制する可能性についても研究成果を発表(※2)してきました。
その研究では、バイオレット光を浴びると、近視進行抑制に関連する遺伝子の1つ「Egr-1」が有意に上昇したと報告されています。
「Egr-1」には、細胞の増減を調整する役割があり、子どもの近視の原因のひとつである眼軸長(目の前から後ろまでの距離)の伸びを抑えられると発表しています。
「Egr-1」の発現を高める効果があるクチナシ色素のクロセチンを発見
坪田一男教授らの研究チームは、近視抑制の新たなアプローチとして食品に注目。近視を抑制する遺伝子「Egr-1」と食品の関連性を調べるため、200種類以上の食品素材を調査しました。その結果、クチナシ色素に「Egr-1」の発現上昇効果が極めて高いことを発見したのです。
研究では、凹レンズを装用させて近視を誘導させたモデルマウスを用いた実験で、クロセチンを与えていないマウスは眼軸長が伸びていたのに対し、クロセチンを投与したマウスは眼軸長の過剰伸長が抑制されることを確認。また、近視や遠視の指標となる屈折度数の変化も抑制されることを確認しています。
天然着色料クチナシ色素とは?
「クチナシ色素」は、実は私たちの身の回りにある菓子類や麺類などに幅広く使われる天然の着色料です。その色素の素はクロセチンというカロテノイド成分で、これまでにも目の研究では、眼血流の改善作用や眼炎症の抑制作用が動物試験により発見されています。
クロセチンはその他にも、網膜変性の予防や眼精疲労の改善などの有効性を示唆する研究が発表されるなど、目の網膜において何らかの役割を果たしている可能性があると考えられています。
今回の「クチナシ由来の色素成分クロセチンが、子どもの近視の進行を抑制する」という研究では、まず動物実験において、食品であるクロセチンが近視化の抑制につながることを証明しています。
今後は、さらにヒト臨床試験によってクロセチンの近視抑制効果が実証されれば、日本の将来の子どもたちの目を守る重要な素材になるかもしれませんね。
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【参考】
※1: Oral crocetin administration suppressed refractive shift and axial elongation in a murine model of lens-induced myopia
※2: Trii H., et al. Violet Light Exposure Can Be a Preventive Strategy Against Myopia Progression. EBioMedicine, 2017; 15, 210-9.
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