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目の症状や病気と予防・治療法

【専門家が教える】眼と腸の意外な関係が明らかに。最新研究を薬学研究者の原英彰教授が紹介

脳と腸が繋がっているイメージのイラスト

『腸内環境を整えよう!』、『善玉菌を増やそう!』といった商品を、皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。最近、腸内環境の重要性や善玉菌のはたらきが注目されていますが、腸内環境を整えると体にどのような良い効果があるのでしょうか。今回は、善玉菌の代表ともいえる「乳酸菌」が眼の機能に与える影響についてご紹介します。


原 英彰(はら ひであき)教授
薬学博士/薬剤師
岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行なっている。


乳酸菌ってなに?

乳酸菌は、発酵によって乳酸をつくる細菌のことで、腸の中で悪玉菌が増えるのを抑えて、腸内環境を整えるはたらきがあるといわれています (1) 。乳酸菌は、ヨーグルトやチーズなどの乳製品やキムチ、ぬか漬けといった発酵食品に多く含まれています (2) 。

腸内環境の改善による便通改善だけでなく、コレステロールの低下や免疫力向上、アレルギーの軽減など、乳酸菌には良いはたらきがたくさんあることが知られています (2) 。

乳酸菌は腸内環境を整える

 

腸内環境が脳のはたらきにも影響する!『腸脳相関(ちょうのうそうかん)』ってなに?

腸と脳は互いに影響しあう

腸内環境を整える乳酸菌などの細菌には様々な良い作用があります。実は腸内環境の良し悪しは、腸とかなり離れた場所にある脳の健康にも影響を与えるといわれています。腸と脳のはたらきは密接に関わっており、この関係を『腸脳相関』と呼びます (3) 。

例えば、ストレスや緊張を感じると、お腹が痛くなるのも『腸脳相関』のひとつです (4) 。逆に、腸内環境が悪くなると、うつ病のような症状が起きるといわれており、実際にうつ病の人の腸内細菌を調べてみると、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が少なくなっているという研究結果があります 。このことから、腸内環境を整えることは脳にとっても大切なことだということがわかります。

腸内環境は眼の病気にも関係する!?

腸内環境は脳だけではなく、眼のはたらきにも影響をあたえるといわれています。自己免疫性ぶどう膜炎という眼の病気に腸内細菌が関係しているという報告があります (5) 。

自己免疫性ぶどう膜炎とは、眼のぶどう膜と呼ばれる部分に炎症が生じる病気で、視力の低下や痛み、充血が起こります (6) 。この病気は、通常はウイルスや菌を攻撃するT 細胞という免疫細胞が、間違って自分の眼を攻撃してしまうことで起こるといわれています (7) 。

自己免疫性ぶどう膜炎を起こすマウスを用いた研究では、このT細胞の活性化が腸内細菌によって引き起こされている可能性が示され、腸内細菌が自己免疫疾患の発症に関わっている可能性が報告されています (5) 。

 乳酸菌が眼精疲労を和らげる!

眼の疲れや視細胞へのダメージを引き起こすとされているブルーライトという光があります。ブルーライトは、人間が眼で見ることができる範囲の光(可視光)の中では波長が短くエネルギーが高い光です。体内リズムに影響を与える光でもあり、夜浴びると不眠を引き起こす可能性がある光です。

ブルーライトと眼精疲労についての記事はこちら
【専門家が教える】ブルーライトは目に良いの?悪いの?目の研究者原英彰教授が最新研究情報を解説

このように、眼や体に影響を与える可能性のあるブルーライトによる眼の炎症を、ある種類の乳酸菌が和らげることが知られています (8) 。

マウスを用いた研究で、ブルーライトによる眼のダメージは乳酸菌を摂取することで和らぐことが明らかとなりました。乳酸菌(L. paracasei KW3110株)を摂取すると、インターロイキン-10 (IL-10) と呼ばれる炎症を和らげる因子がマウスの腸内で増えることが示されました。これが血液によって眼まで運ばれ、ブルーライトによる眼のダメージを和らげたのではないかと考えられています。

また、炎症を抑えたり、組織を修復する役割をもつ、M2型マクロファージという細胞が、IL-10のはたらきで増え、更にダメージを和らげると考えられています。

さらに、乳酸菌を摂取することで、スマホやPCによる眼精疲労が和らぐのかについて調べた研究があります (9) 。この研究では、健康なヒトを対象とし、乳酸菌を含むサプリメントを摂ったグループと摂っていないグループの2つに分けて、眼精疲労の感じ方について調べています (9) 。その結果、乳酸菌を含むサプリメントをとっていたグループの方が、眼精疲労をあまり感じていないことが明らかとなりました (9) 。

ブルーライトによる眼の炎症を乳酸菌が和らげる

乳酸菌が眼の病気の予防につながる?実際に研究してみた!

乳酸菌が眼の病気を予防する力があるのかどうか、我々の研究室でも実際に研究をしています。

眼の網膜という部分に浮腫ができる動物モデルを使って、乳酸菌が網膜の浮腫を予防できるのか実験を行いました。浮腫とは、網膜に液状の成分がたまり、むくみを起こす現象のことで、視力の低下につながります。乳酸菌を食べていたグループは、乳酸菌を食べていないグループに比べて、浮腫ができにくいことがわかりました。(日高及び原ら, 第11回岐阜薬科大学機能性健康食品研究講演会にて発表, 2020年10月)

乳酸菌で腸内環境を整えることによって、眼の病気を予防できるかもしれないということがわかってきました。

さいごに

今回、乳酸菌にはたくさんの良いはたらきがあることをご紹介しました。しかし、乳酸菌は健康をサポートするための“食品”です。まずは自分の生活を見直して、腸内環境を整える生活を心がけてみてください。乳酸菌を多く含む食べものを積極的に食べたり、ときにはサプリメントを使用したりしながら、良い腸内環境でより健康な生活を目指してみてはいかがでしょうか。

腸内環境が体に及ぼす影響の詳細なメカニズムについては、実は完全には分かっていません。これから研究が進んでいけば、少しずつ明らかになってくると思います。私たちの研究室においても今後、積極的に研究を行って、皆様のお役に立てればと思います。

 

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考】
1.厚生労働省e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-026.html
2.わかさ生活:成分情報
http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/lactic-acid-bacilli/
3.公益財団法人 腸内細菌学会/ (旧) ビフィズス菌センター
https://bifidus-fund.jp/index.shtml
4.腸内細菌学雑誌 32 : 7-13,2018 「うつ病・自閉症と腸内細菌叢」功刀 浩
5.Horai R et al., Microbiome and Autoimmune Uveitis. Front Immunol, 19;10:232, 2019.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6389708/
6.日本眼科学会 ぶどう膜炎
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/budo_makuen.jsp
7.MEDLEY ぶどう膜炎https://medley.life/diseases/54ebf2069711e788251b62bc/
8.Morita Y et al., Lactobacillus paracasei KW3110 Prevents Blue Light-Induced Inflammation and Degeneration in the Retina. Nutrients, 15;10(12):1991, 2018.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6316514/pdf/nutrients-10-01991.pdf
9.Morita Y et al., Effect of Heat-Killed Lactobacillus paracasei KW3110 Ingestion on Ocular Disorders Caused by Visual Display Terminal (VDT) Loads: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Parallel-Group Study. Nutrients, 9;10(8):1058, 2018.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6116181/

この記事を書いた人

原 英彰

薬学博士/薬剤師

岐阜薬科大学学長。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っています。

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