文字の
サイズ

目の症状や病気と予防・治療法

メノコト最新研究紹介  目の機能と脳の機能は関連があるかも?

目と脳がつながっていることが分かるイラスト

私たちがものを見る時、目だけではなく脳もフル活動しています。しかし、目の機能と脳の機能との間に関連があるかどうかはこれまではっきりとわかっていませんでした。

そんな中、2019年に慶應義塾大学を中心とした研究グループが、網膜の厚さと認知機能の間には相関があるという研究結果を発表しました。いったいどのような研究内容なのか、この研究結果から何が分かるのかについて解説します。

ものを見るしくみ~目と脳の関係~

私たちがものを見る際の入り口は目です。目の角膜や水晶体を通って網膜に光の像が映し出されます。網膜に光の像が映し出されると、網膜上で光が電気信号に変換され、その信号が視神経を通って脳に届き、ものが「見えた」となります。したがって、ものを見るためには目と脳の両方をととのえる必要があるといえます。

ものが見える仕組みのイラスト

新しくわかった目と脳の関係

研究紹介の前に目の構造を予習

2019年に発表された論文で、目の網膜の厚みと脳の認知機能の間に関連があることが分かりました。網膜は層状構造をしており、様々な種類の細胞が積み重なってできています。

網膜にある視細胞のイラスト

例えばは、見たものを電気信号に変える視細胞(杆体細胞、錐体細胞)や視細胞のメンテナンスをする網膜色素上皮細胞。電気信号を伝えるための視神経につながる網膜神経節細胞や視細胞と神経節細胞の間を取り持つミュラー細胞などが存在します。こういった網膜に存在する細胞の数が減少してしまうと、網膜全体の厚さが薄くなります。網膜が薄くなる原因は、加齢や眼病など様々です。

そして近年、網膜の厚みを痛みなく測ることができる機械を取り入れている眼科もあります。光干渉断層計(OCT)という機械を使って測ります。今回紹介する研究では、OCTによる網膜の厚みの測定と、認知機能を測る試験を組み合わせています。

OCTによる網膜の撮影(イメージ)

どんな研究を行なったの?

今回の試験では、65歳から86歳までの日本人1,293名に対し、OCTを使った網膜の厚さの定と認知機能のテストを行い、その関係を調べました。

その結果、網膜の厚さと認知機能の間に相関があることが分かりました。なんと、網膜が薄い人は認知機能も低下しているとが分かったのです [1]。

今回の研究では、網膜の厚さと認知機能の相関関係は分かったのですが、因果関係があるかどうかはわかりませんでした。つまり、網膜が薄くなった後に認知機能が衰えるのか、認知機能が衰えた後に網膜が薄くなるのか、その点はまだ解明されていません。

しかし、認知機能に関連すると考えると、今のうちから目の健康に注意をした方が良いのではないでしょうか。

網膜が薄くなる原因は?

先ほどの段落で、網膜が薄くなる原因は加齢や眼病など様々であるとお伝えしましたが、代表的なものを紹介します。

緑内障…網膜から脳に情報をつたえる視神経にダメージが生じ、視野の一部が欠ける病気です。主に高眼圧が原因とされていますが、日本人では眼圧は正常範囲内であるにもかかわらず視野が欠ける“正常眼圧緑内障”の患者が多いです。網膜の一部、網膜神経線維層が薄くなる症状がみられます [2]。

加齢黄斑変性…加齢や過剰な紫外線、喫煙などが原因で生じた酸化ストレスなどにより、ものを見る時の中心である網膜の黄斑に傷害が生じる病気です。加齢黄斑変性の中でも萎縮型(dry type)では、視細胞がダメージを受け数が減り、網膜の視細胞層が薄くなるという特徴があります。

ブルーライト、過剰な可視光…ブルーライトや過剰な可視光によって、網膜の視細胞がダメージを受け数が減り、網膜が薄くなるということが知られています [3, 4]。

今のうちからできることは?

今回の研究からは、目と脳のどちらを優先して守れば良いかまではわかりません。そのため、どちらも衰えないような生活を送る方が良いでしょう。

例えば、網膜が薄くなる原因の一つとして可視光やブルーライトの浴び過ぎなどが挙げられます。スマートフォンやパソコンを完全に断つことは難しいでしょうが、長時間見過ぎない、画面の明るさを少し落とすなどの対策を取ることができます。

また、緑内障や黄斑変性の原因の一つに体内の酸化ストレスが挙げられます。活性酸素という、体内を攻撃してしまう酸素が生じることで網膜の細胞がダメージを受けるのですが、抗酸化成分であるアントシアニンを含むビルベリーやカシス、カロテノイドであるルテインなどはこういった眼病の予防に役立つ可能性があります。食事から積極的に摂りたいですね。もちろんサプリメントを活用した補給も良いでしょう。

ポリフェノールを含む食材たち

脳が衰えないようにするには、刺激が大切です。脳を鍛える意味でパズルやクイズなどの脳トレにチャレンジしても良いですね。また、日常生活の中でも「料理」は脳の活性化に役立ちます。同時にいくつかの作業を並行して行うため、脳はフル回転で活動します。完成した料理を食べて美味しければ、それも良い刺激になりそうですね。

さらに、新しいことへのチャレンジは良い刺激になります。特に、アートや創作は脳を刺激するといわれており認知症予防に効果があるとのデータもあります。絵画や彫刻などが良いのですが、なかなかハードルが高いもの。そのため、手軽に始められる大人用塗り絵などがおすすめです [5]。

おわりに

今回の研究結果から、目と脳の間には大いに関係があることが分かりました。今後、さらなる研究が進み、具体的な予防策が分かることが期待されますね。

 

※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。

【参考文献】
1.Minami S, Nagai N, Suzuki M, Uchida A, Shinoda H, Tsubota K, Ozawa Y.:Ocular and Systemic Effects of Antioxidative Supplement Use in Young and Healthy Adults: Real-World Cross-Sectional Data., Antioxidants (Basel). 2020 Jun 3;9(6):487.
2.片井麻貴,大黒 浩:日本人健常眼における網膜神経線維層厚に対する加齢、屈折及び眼圧の影響の研究. 札幌医学雑誌. 80(1-6)23-30. 2020.
3.Izawa H., Inoue Y., Ohno Y., Ojino K., Tsuruma K., Shimazawa M. and Hara H. Protective effects of anti-placental growth factor antibody against light-induced retinal damage in mice. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 56, 6914-6924, 2015.
4.Nakamura M., Kuse Y., Tsuruma K., Shimazawa M. and Hara H. The involvement of the oxidative stress in murine blue LED light-induced retinal damage model. Biol. Pharm. Bull., 40, 8, 1219-1225, 2017
5.「若々」2021年1月号/発行 株式会社わかさ生活/発売 株式会社ミライカナイ

この記事を書いた人

大江 絵美

薬学博士

岐阜薬科大学薬効解析学研究室に4年間出向し、目のことやビルベリーの健康効果の研究を行ってきました。目のこと、サプリメントの素材についての研究や調査をもとにした情報発信を行っています。

こちらの記事もおすすめ