「視力検査ではきちんと1.0まで見えているのに、日常生活の中だとなぜか見えにくい」
そんな風に感じたことはありませんか?実は視力検査で測っている「視力」と、日常生活を送るうえでの「視力」は種類が違うといわれています。今回は、日常生活の中で働いている視力、すなわち「実用視力」について解説していきます。
視力検査でわかる視力はどんな視力?
皆さんは健康診断や免許の更新の時に、視力検査をされたことがありますよね。一般的な視力検査ではランドルト環と呼ばれる“C”に似たマークの切れ目がどの方向を向いているかを判別し、視力を判定します。この方法では一瞬でも見えれば良いので、全力の視力(視力の最大値)を測っている事になります。
しかし、日常生活を送る中で、常に最大の視力を継続しているわけではありません。そのため、視力検査では良く見えているのに、日常生活では「そんなに見えないな…」と感じることがあるのです。
実用視力はどんな視力?
通常の視力検査で測っている視力は全力の視力で、いわゆる「視力の最大値」とお伝えしました。しかし、日常生活の中では、私たちはいつも全力の視力を発揮しているわけではありません。
例えば車の運転中や、映画やドラマの字幕など。生活の中では、視界に入る文字や景色が絶えず変化しています。そのため、一瞬「見えた」ものを一瞬で「認識する」必要があります。この時の視力が「実用視力」と呼ばれます。実用視力は、「視力の平均値」と例えられています。では、実用視力はどのように検査するのでしょうか。
実用視力検査では、ランドルト環の切れ目がどこかを正解すると環の大きさが一段階小さくなり、間違えると環の大きさが一段階大きくなります。1つのランドルト環は、「2秒」以内にどっちに切れ目があるかを答えなければいけません。この測定を60秒間連続して行うことで、平均の視力を導き出し日常的に見えている視力を測ることができます。
実用視力はどんな時に必要なの?
実用視力はどんなシーンで使っているのでしょうか?例えば車の運転をしている時に発揮するのは実用視力です。運転中は、信号や標識の認識、前の車の車線変更、道路への飛び出しなど、一瞬で「見て」認識しないといけませんね。
最近の研究では高齢者ドライバーと若年者のドライバーを比べた時に、高齢者の方が、実用視力が低下している割合が高いことが示されています [1]。この研究結果は高齢者ドライバーの事故が近年増えてきていることと相関があるといえそうです。
また、実用視力の低下は薄暗い時にも起こります。ある研究では、明るい時と薄暗い時の実用視力の差を調べると薄暗い時に実用視力が低くなることが示されています [2]。これらの研究結果を考えると、免許の更新時の視力検査の結果が大丈夫でも、実用視力が低下していて「見えづらい」という場合があるかもしれません。
実用視力が落ちる原因は
実用視力が落ちる原因は、目の疲れかな?と思っていませんか。意外にも、実用視力が落ちる背景に、目の病気が隠れている場合があります。代表的なものとしては、ドライアイが挙げられます。ドライアイの患者さんは、目の表面の涙の層が不安定になっているため、通常の視力検査では見えていても、実用視力は低く出ることがあります。他にも、初期の白内障患者や、初期の黄斑変性患者でも実用視力が悪くなるという報告があり、こういった病気の早期発見にも役立つと考えられます [3]。
実用視力を維持するために必要なことは?
実用視力を維持する一つのポイントは、「まばたき」です。
実用視力を測る時、しっかり見ようとするあまりまばたきを忘れがちになるのですが、かえって逆効果です。ドライアイの患者さんで実用視力が低下するのと同じで、まばたきが少なくなると涙の層が不安定になり、目のかすみにつながります。目がかすんでしまっていては、一瞬(2秒)でランドルト環を判別しないといけない実用視力検査では命とりですね。
さらに最近の研究では、抗酸化成分のサプリメントを2ヵ月以上飲んでいると、サプリメントを飲んでいない人に比べて実用視力が高かったという結果がわかっています [4]。代表的な抗酸化成分といえば、ビルベリーに含まれるアントシアニンをはじめとするポリフェノール類。さらには、ルテインやアスタキサンチンなどのカロテノイドなども有名です。
おわりに
普通の視力検査でわかる視力と、日常生活の中での視力に違いがあることを紹介しました。そして、その背景に意外な病気が隠れていることもあるとわかっていただけたかと思います。日常生活の中で「見えづらいな」と感じた時は、「疲れだろう」と放置せずに眼科に相談するなどの対策を取ってくださいね。
※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。
【参考文献】
1.Kaido M., Matsutani T. et al, Aged Drivers May Experience Decreased Visual Function While Driving. Asia Pac J Ophthalmol (Phila) 2 : 150-158, 2013.
2.Hiraoka T, Hoshi S et al : Mesopic Functional Visual Acuity in Normal Subjects. PLoS One10 : e0134505, 2015.
3.平岡孝浩、実用視力検査の意義と臨床応用、視覚の科学、第37巻、第3号
4.Minami S, Nagai N, Suzuki M, Uchida A, Shinoda H, Tsubota K, Ozawa Y.:Ocular and Systemic Effects of Antioxidative Supplement Use in Young and Healthy Adults: Real-World Cross-Sectional Data., Antioxidants (Basel). 2020 Jun 3;9(6):487.