日に日にあたたかくなり、今年も夏本番がすぐそこまで来ています。では、夏のお悩みにはどんなものがあるでしょうか?
- 汗をかく、べたべたする
- 夏バテ気味で食欲がわかない
- 日焼け、シミが気になる
いろいろあるかと思いますが、実は夏になると「目のトラブル」も増えるのです。例えば…
- 1日外で遊んだ夜に、目が痛くなってしまった
- プールに行った次の日に、目が真っ赤になった
これらのお悩みに心当たりのある方はいらっしゃいませんか?
今回の記事では、薬剤師であり岐阜薬科大学副学長でもある原英彰教授に夏のひとみトラブルについてオンラインでインタビューさせていただきました!
原 英彰(はら ひであき)教授
薬学博士/薬剤師
岐阜薬科大学副学長。薬効解析学研究室教授。製薬会社の研究所で抗片頭痛薬、脳卒中治療薬、抗緑内障薬など新薬の研究開発に従事。現在は脳や目の病気の解明とその治療薬の研究、健康食品の研究などを行っている。
読者のお悩み、その原因を原教授に聞いてみた
大江編集長(以下、大江):原先生!読者の方からメノコト365に寄せられた疑問やお悩みの中に、「1日外で遊んだ夜に、目が痛くなってしまった。何が良くなかったのでしょうか?」「子どもにせがまれてプールに行ったら、次の日に目が真っ赤になった。どうしてですか?」といった疑問が寄せられています。これらの症状は何が原因なのでしょうか?
原教授(以下、原):それらは、夏に増える目のトラブルですね。夏の目のトラブルといえば、大きく2つ挙げられます。一つは紫外線が原因で起こるトラブル。もう一つは、細菌やウイルスが原因の感染症による結膜炎です。
夏の目の2大トラブル① 紫外線って悪者?
大江:まず、紫外線が原因の目のトラブルについて教えてください。紫外線といえば、肌を日焼けさせるだけではないのでしょうか?
原:紫外線は非常にエネルギーレベルが高い、目には見えない光です。紫外線が原因で、網膜の細胞がダメージを受けたり、水晶体の中のたんぱく質が変性し、水晶体が白く濁る白内障のリスクが高まったりしてしまいます。
大江:具体的には、どのような病気につながるのでしょうか?
原:具体的には、目の表面にある角膜のトラブルとして表層角膜炎や翼状片など。目の一番奥にある網膜のトラブルとして、黄斑変性といった病気。さらには、目の中で厚さを変えて、ピント調節を行なっている水晶体が白く濁ってしまう、白内障などがあります。しかし、黄斑変性や白内障は、すぐに症状が出る病気ではないので注意が必要です。
大江:それぞれどのような症状ですか?
原:表層角膜炎は、原因によって雪眼炎(せつがんえん)や雪目(ゆきめ)、電気性眼炎(でんきせいがんえん)などともいわれます。海水浴場や山で、あるいは冬のスキー場で、長時間角膜が紫外線にさらされた場合に起こります。目に痛みやまぶしさを感じたり、涙が止まらなくなったりします。
大江:翼状片は、数年前に夏の甲子園大会に出場された選手が患っているとのことで話題になりました。その選手は試合中にサングラスを着用していましたが、どのような病気ですか?
原:翼状片は、白目の表面を覆っている結膜が、黒目の上に入り込んでくる病気です。自覚症状として充血や異物感などがありますが、翼状片が進行すると角膜がゆがんで乱視を引き起こし、進行して瞳孔にかかると視力低下につながる可能性があります。
大江:なるほど。これらは角膜の病気なのでイメージしやすいのですが、網膜に症状が起こる黄斑変性はどのようなメカニズムなのでしょうか?
原:黄斑変性は、網膜がもともと持っている老廃物を処理する働きが衰え、黄斑部に老廃物などが沈着し、網膜の細胞や組織に異変をきたす病気です。主な原因は加齢ですが、紫外線の曝露や、喫煙なども病気に関連しているといわれています。
大江:紫外線はどのように網膜に届くのでしょうか?
原:紫外線には波長の長さによって紫外線A波(UV-A)、紫外線B波(UV-B)、紫外線C波(UV-C)の三種類に分けられます。
UV-Cはオゾン層に吸収され、地表に届きません。
UV-Bは主に角膜と水晶体に吸収されます。
UV-Aは地表に到達し、角膜や水晶体でも吸収しきれずに網膜まで直接届きます。それによって網膜にダメージを与えます。
大江:様々なタイプの病気につながってしまうのですね。紫外線による目のダメージを予防するにはどのような方法があるのでしょうか。
原:やはり、目に紫外線を「届かせない」ことが一番ですね。サングラスや帽子、日傘などで目に届く紫外線を物理的にカットすることが一番です。また、普段の食事の中で、目の健康に役立つ栄養素を積極的に摂取することをおすすめします。
私たちの研究グループでは、紫外線が原因の網膜細胞ダメージに対して、ビルベリーエキスやアントシアニン、さらにはレスベラトロールが保護的に働くことを報告しています[1]。
また、黄斑変性に対しては、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、銅、ルテイン、ゼアキサンチンの組み合わせにより加齢黄斑変性の発症頻度を下げることが報告されていますので、こういった栄養素は積極的に摂っていただきたいですね[2,3]。さらに、角膜を保護するような性質を持つコンドロイチンなどもよいのではないでしょうか。
大江:それでも日常生活で見え方に変化や違和感を感じたときには?
原:そんなときは自己判断せずに眼科に行きましょう。眼科医の先生の診療に従って、生活習慣の改善や処方されたお薬を正しく使っていただきたいです。
夏の目の2大トラブル② 感染症って夏に関係あるの?
大江:次に、感染症による結膜炎について教えてください。どのような菌が原因でしょうか?
原:アデノウイルスによる結膜炎が有名ですね。プールを介して流行するのでプール熱とも呼ばれます。
膜は目の表面をおおう薄い透明な粘膜で、黒目 ( 角膜 ) のまわりの白目の表面と、まぶたの裏をおおうピンクの部分からなっています。 結膜炎になると白目が充血して赤くなり、「めやに」がでたり、涙がでたりします。まぶたがはれることもあります。 結膜炎では、まず目もとや目じりに近い白目が充血します。
大江:ウイルスなどによる感染症といえば、冬にはやりそうな印象ですが、どうして夏に流行するのでしょうか?
原:原因となるウイルスの種類によります。ただし、夏は意外と結膜炎のリスクが高いといえます。
例えば、夏は頭や顔周りでよく汗をかきますよね?そうすると、ついつい手で顔周りの汗をぬぐったりしていませんか?それにより、顔、特に目の周りが不衛生になるため、結膜炎を発症してしまうことがあります。
大江:では、汗をぬぐうときはハンカチやタオルが必須ですね。
原:はい。しかも、ハンカチなどは自分用のものを使い、ヒトとは兼用しないほうが良いです。もし、ハンカチを借りた相手がウイルスに感染していたら、あなたにもウイルスが移ってしまいますからね。そして、目が充血するなどの症状が出た場合は、決して自己判断はせずに、眼科医に相談してくださいね。
大江:今年は2月ごろから新型コロナウイルスに関連した報道が増えており、結膜炎に関しても気になる情報があります。その中でも、新型コロナウイルスが目を介して感染すること、新型コロナウイルス陽性患者さんのうち約1%に結膜炎の症状が見られたという報道もあります[4]。先生は、新型コロナウイルスと目の症状に関してどのようにお考えですか?
原:新型コロナウイルスに関しては、現時点では確実なことが言えるほどの研究データが出そろっていません。治療薬やワクチンに関しても開発中の段階のため、まだまだ予断を許すことはできませんね。ただ、日本眼科学会やWHOなどの発信する情報をしっかりと吟味し、それらを基にした国や自治体の情報に従って生活していただきたいと思います。
取材を終えて
取材を経て、夏は目のトラブルが思っているより多いということがわかりました。紫外線は肌だけではなく、目にも影響を及ぼしますし、白内障や黄斑変性といった目の病気につながる可能性もあるとのこと。さらに、感染症による結膜炎が夏に増えるというのも目からうろこでした。
私たち自身が、夏の目のトラブルの原因を正しく理解し、正しく怖がり、正しく予防することが将来の目の健康を守ることにつながると予防はもちろんですが、見え方の変化や異常を感じたときには自己判断せず眼科を受診するようにしましょう。
※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。
【参考】
[1] Ogawa K., Tsuruma K., Tanaka J., Kakino M., Kobayashi S., Shimazawa M. and Hara H. The protective effects of bilberry and lingonberry extracts against UV light-induced retinal photoreceptor cell damage in vitro. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 61, 10345-10353, 2013.
https://www.gankaikai.or.jp/info/20200402_COVID-19.pdf