高齢化が進むとともに、白内障の手術を受ける方も身近に増えているのではないでしょうか。手術が一般的になったとはいえ、実際自分が受けるとなると、どうしていいか分からないものです。
その中でも悩むのが、手術を受けるタイミング。いつすればいいのか、早い方がいいのか、手遅れになってしまわないか、知らないことや分からないことも多いですよね。
そこで今回は、手術をいつ受けたらいいのか、何を参考にすれば良いかを、実際に数多くの白内障手術を手がけていらっしゃる川原眼科院長、川原周平先生の話も交えながら、紹介したいと思います。
監修者プロフィール
川原 周平(かわはら しゅうへい)
川原眼科院長。
2003年九州大学医学部卒業後、九州大学病院や国立病院機構「小倉医療センター」で臨床経験を重ね、2016年福岡県の糟屋郡に川原眼科を開院。先進医療認定施設として最先端の白内障や網膜硝子体疾患の手術治療を専門とする。
医学博士。日本眼科学会専門医。ICL認定医。オルソケラトロジー認定医。ボトックス認定医。LASIK(IntraLase)認定医。
川原眼科HP
目次
そもそも白内障手術を受けるべきタイミングってどう判断すればいいの?
いざ病院で白内障と診断されても、すぐに手術となるとは限らないようです。初期段階だと、先生から「もう少し様子をみましょう」と言われた方も多いのではないでしょうか。
日本眼科医学会では、白内障の治療について、生活上で不便を感じるようになった時が、手術を受ける時期(※1)としています。
そのため、眼科の先生は「目をよく使う仕事をされていないなら、もう少し様子をみましょう」「運転はされないようですし、手術は急がなくていいですよ」など、患者さんの日常の過ごし方をもとにアドバイスをし、その上で「日常生活に支障がでたと思われた時に手術をしましょう」と説明することが多いようです。
でも日常生活の支障といっても、仕事をしている人、していない人、よく出かける人、家で過ごすことが多い人、など人それぞれ違いますから「自分で判断できるのかしら?」と不安になりそうです。
自分で決めるといっても…難しい。手術時期を考える上でありがちな6つの悩み事
1.日常生活に支障がでる「見えづらさの基準」が分からない
ぼやけたりかすんだり、まぶしくなったり、物がだぶって見えたり…白内障の症状が出始めて不便といえば不便ですが、生活の中でどの程度まで不便になれば問題なのか、「見えづらさの基準」は自分ではなかなか分かりづらいです。
2.手術が怖いからできるだけ先延ばしにしたいけれど…
手術なんてやっぱり怖い。できることならしたくないし、やらずにすむならそうしたいところだけど…。とりあえず先延ばしにしてもいいのか、どれくらいまでなら先延ばししていいのか、迷ってしまいますね。
3.どうせ必要なら早く手術したほうがいいの?
進行した白内障は結局手術でしか治らないなら、本当は1日でも早く受けたほうがいいんじゃないの? どうせいつかは手術が必要なら、さっさとやってしまったほうがいいのかも…悩んでしまいます。
4.老眼と同時に治療するのがいい?老眼が進行するまで待つべき?
多焦点眼内レンズによる手術を受けることで、遠近の両方に焦点を合わせることが可能だと医師から聞いたことはありませんか? 結果的にですが老眼も改善できるため、「白内障の進行をそれほど待たずに手術をした方が生活が便利に豊かになるので早めにするのもいいかもしれませんね」と医師にすすめられるケースもあるようです。とはいえ、本当に手術をしてしまって良いのか迷ってしまいますよね。
5.もっといい眼内レンズが出るまで待つべき?
近年、眼内レンズの進化が早いため、医師から最新のレンズをすすめられた方も多いのでは? もっといい眼内レンズが開発されるまで手術を待つべきか、進化が早いだけに迷ってしまいそうです。
6.多焦点眼内レンズが保険適用になって安くなるまで待つべきか悩む
現在のところ残念ながら多焦点眼内レンズは保険適用外になっており、保険適用されている単焦点レンズより手術費用の負担が大きくなっています。せっかく治療するなら多焦点眼内レンズにしたい人も多いと思いますが、保険適用されるまで待つべきか悩むところです。
ありがちな6つの悩み事を紹介しましたが、次からは実際に手術時期の目安になりそうなポイントを解説します。
白内障手術の平均年齢は?年齢制限はあるの?
手術をいつ受ければいいか自分で判断するのは難しそう…。年齢など、分かりやすい目安があるといいですよね。
白内障の手術を受けるのに、年齢は関係あるのか、平均年齢や年齢制限があるのか、川原先生のご意見を聞いてみました。
手術を受ける方の平均年齢は70代
白内障(初期)の罹患率は「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」によると、「50歳代で37〜54%、60歳代で66〜83%、70歳代で84〜97%、80歳代では100%」とあります。全体の9割が白内障になるといわれる70代は単純に手術する人も多いように感じますが、どうなのでしょうか。
川原先生はこのように答えてくださいました。
「手術をする平均年齢は70歳前後だといわれています。当院でも多いのは70代ですね。60代、70代になると白内障の症状がより強く現れ、自覚しやすくなる傾向があるというのがあると思います。また、仕事を引退し時間的な余裕がでる年代であることも関係しているのではないでしょうか。ただし多焦点眼内レンズを用いた白内障手術においては、メガネから解放されたいと望む生活における活動の多い60代の方が多い印象です。」
白内障の進行状況やご自身の生活環境などいくつかの要因が重なることで、70代で手術される方が多いようですね。
年齢制限はあるの?90歳では手遅れになる?
手術を考えるときに、もう一つ気になるのは「年齢制限はないのか」「高齢になるにつれ手遅れになってしまわないか」ということではないでしょうか。
日本白内障屈折矯正手術学会のHPによれば、「90歳まで生活に不自由を感じていなかったので受けなかったケースもあります。」とあったり、いくつかの眼科のHPでは100歳を超えて手術をされている事例も見受けられます。
しかし川原先生に質問すると、このようなリスクを指摘されました。
「白内障の手術も85歳以上の超高齢者の場合、リスクがでてきます。加齢により瞳孔が開きにくくなったり、水晶体の支えがゆるむことなどで手術の難易度が上がるんです。白内障以外にも全身の疾患や不調などが影響してくる可能性もありますから、注意が必要です」
年齢制限はないものの、加齢により手術のリスクが上がるということも含め、手術を受ける時期は、「年齢」も考慮して眼科の先生に相談してみるのがいいかもしれませんね。
▼さらに年齢について、川原先生からの詳しいアドバイスを知りたい方はこちらから
白内障の手術をするのに年齢的な目安はあるの?[教えて!川原先生]
こんな時、手術を検討すべき?日常生活の不便・不自由を感じる症状例4つ
では最後に、こんなタイミングで手術を検討してはどうか、というきっかけになりそうな例を紹介します。「白内障により日常生活の不便・不自由を感じる症状」として、考えられる事例を4つ挙げてみましたので、当てはまる点があれば、眼科医の先生に相談してみましょう。
1.仕事に支障がでるようになった
パソコン画面の文字が見づらくなってきた、書類の細かい文字が見づらくなってきた、運転する機会が多い仕事なのに見づらくなってきた…。このように、白内障により視力が低下したり見えづらくなったりすることで仕事に支障がでるというのは、働く方にとっては深刻ですよね。
2.視力が0.7以下になって運転免許の更新ができなくなる
普通第一種免許の場合、矯正視力が両眼で0.7以上などの決まりがありますが、免許更新時に両眼の視力が0.7以下になってしまった…。仕事で車をよく使ったり、まだまだ車を運転したい人にとって、運転免許の更新ができないというのは困ります。
3.メガネでは視力の矯正ができにくくなった
白内障が進んで視力が低下し、メガネなどで矯正するのが難しくなってきた。いくらメガネを変えても視力は改善せず、メガネが役に立たなくなってきた。
4.まぶしくて極端に見えづらい
太陽の光が異常にまぶしく外を歩くのがつらくなってきた。夜間のヘッドライトがまぶしく運転が難しくなってきた。外出することが多い人にとって、まぶしくて極端に見えづらい状況は不便です。
日常生活に支障がでたら白内障手術を受けることを考えよう
白内障の手術を受ける時期は、自分自身で考えたり決めたりすることも多く迷ってしまいます。「手術の平均年齢は70代」「85歳を越えるとリスクが上がる」という情報を知ったうえで、仕事や生活への支障につながるような問題がないかご自身でも確認してもらえたらと思います。そして、ご自身の日常生活に支障がでてきたら手術を検討するため、かかりつけのお医者さんに相談してください。
また白内障は自己判断しないことが大切です。気になる症状があれば早めにかかりつけのお医者さんに相談しましょう。
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※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。
【参考】
※1 : いつ手術を受けたらいいの?|日本眼科医会
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