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目の症状や病気と予防・治療法

治療法がほとんどなかった目の病気に希望の光!新たな治療法の鍵を握るのは目と腸の関係

眼科検査を受ける男性

私は網膜色素変性症という目の病気で、視野が狭くなる、暗い場所で見えずらいなどの症状があり、少しずつ症状が進行しています。しかも治療法がほとんどない状況です。
しかし、最近の研究で腸へのアプローチにより、網膜色素変性症などの遺伝性の目の病気の悪化を防げる可能性がでてきました。
今回はそんな目の病気と腸の関係や,今後期待できる新たな治療法について紹介します。

 

腸と目の関係

脳と腸が繋がっているイメージのイラストまず、ものを見るための目と消化器官である腸は別の臓器で全く関係ないのでは?と思われた方もいると思います。しかし、腸は第2の脳ともいわれていてさまざまな研究により、「脳腸相関」という脳と腸がお互いに影響を及ぼしあうことがわかっています。
例えば、ストレスを感じたときにお腹の調子がわるくなるのは、脳が自律神経を介して腸にストレスの刺激を伝えるためで、反対に腸に病原菌が感染すると不安感が増すと言う研究結果も出ています。
そして、脳と目の奥にある網膜は発生学的に同一組織からできているので、腸の影響が脳だけでなく目にも影響を与えることも研究によりわかってきました。

遺伝性の目の病気の原因の一つは腸内細菌

そんな研究の一つで今回注目したのが、私の目の病気である網膜色素変性症などの悪化を防ぐことができるかもしれないというものです。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの眼科医であるリチャード・リー氏らの研究チームが、特定の遺伝性の目の病気による視力の低下は、腸内細菌によって引き起こされる可能性があることを突き止めました。
なぜ視力低下に腸内細菌が関係しているのか、その鍵を握るのが「CRB1遺伝子」でした。

 

「CRB1遺伝子」とバリア機能

網膜には「CRB1遺伝子」が存在していて、その遺伝子から生み出されたたんぱく質は目に出入りする物質の調整を行う「血液網膜バリア」の構築に役立っていると考えられています。この「CRB1遺伝子」に異常がある場合、網膜色素変性症やレーバー先天性黒内障などの遺伝性の目の病気が生じるリスクが高まると言われています。
実際に、そういった目の病気の方々の目を調べたところ、腸内細菌が異常に多かったことから「CRB1遺伝子」の異常により、「血液網膜バリア」の構築がうまくいかず、網膜に腸内細菌が入り、損傷を与えた結果視力の低下などにつながったのではないかと推測されました。

 

 

マウスを用いた実験で新たな発見

ではなぜ遠く離れた腸から細菌がやってきたのか、研究チームはマウスを用いた実験を行い、これまで脳と網膜にのみ存在すると考えられていた「CRB1遺伝子」に関係するタンパク質が、腸壁にも存在することを明らかにしました。
このタンパク質は、網膜だけでなく腸内でも病原体や有害な細菌と戦い、体内の健康を保つためのバリアを維持する上で重要な役割を果たすことがわかりました。
しかし、「CRB1遺伝子」に異常があると、バリアの構築がうまくいかず破れてしまいます。研究チームによると、意図的に「CRB1遺伝子」に異常を起こしたマウスでは、腸内細菌が破れたバリアを通過し、血流を通って網膜に入り、視力を低下させるような病変が引き起こされたとのことです。

抗生物質による治療の可能性

研究チームではこれらの腸内細菌に対して抗生物質を投与したところ、マウスの視力低下を防ぐことができるという結果がでています。しかし、残念ながら抗生物質を投与しても損傷したバリアは回復できなかったようです。
遺伝性の目の病気は失明原因の多くを占めます。これまで治療法を見つけようとさまざまな研究が行われてきましたが、遺伝子治療に焦点が当てられることが多かったです。
そんな中、今回の研究によって抗生物質を使用するだけで、「CRB1遺伝子」に関連する遺伝性の目の病気の悪化を防ぐことができる可能性が示唆されました。

更なる研究の先に

研究を経てリー氏は『私たちの発見は、「CRB1遺伝子」関連の遺伝性の目の病気における治療を変革する上で大きな意味を持つ可能性があります。私たちはこの研究を人間を対象とした臨床研究でも行い、このメカニズムが本当に人間の失明の原因であるかどうか、また腸内細菌を標的とした抗生物質の投与が失明を予防できるかについて確認したいと考えています」
さらに「今回の研究では網膜の変性と腸をつなぐまったく新しいメカニズムが明らかになったため、より広い範囲の目の状態に影響を与えるようなさらなる研究を行いたいと思います」と述べられています。

 

最後に

私はこの文章を書く直前に網膜色素変性症の遺伝子検査の申し込みをし結果がわかるのが半年後。原因となる遺伝子を特定できるかは50%程度で、遺伝子が特定できたとしても治療はまだ難しい状況です。
そんな中で抗生物質を投与するだけで治療できる可能性が出てきたのは当事者としてはとても嬉しいです。さらに研究が進み、明るい未来が訪れることを願っています。

参考URL
・レーバー先天性黒内障 日本小児眼科学会
http://www.japo-web.jp/info_ippan_page.php?id=page19

・日本眼科学会:網膜色素変性診療ガイドライン
https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=306&dispmid=909

・CRB1-associated retinal degeneration is dependent on bacterial translocation from the gut: Cell
https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(24)00108-9

・Blindness from some inherited eye diseases ma | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1035493

 

日本小児眼科学会 | 子どもの眼の疾患に関する医療と学問の発展を目的とする日本小児眼科学会

子どもの眼の疾患に関する医療と学問の発展を目的とする日本小児眼科学会

この記事を書いた人

山本 旭彦

わかさ生活ヘルスキーパー。網膜色素変性症によって視野が狭くなり、暗いところも見づらい症状をもつ。視覚障がいへの理解、気軽にサポートできる環境を広めようと、「あきひこさんの一日」と称した出張授業を小学校などで継続的に実施しています。

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