毎年、3月上旬に「世界緑内障週間」が定められています。
「世界緑内障週間」とは、世界緑内障連盟と世界緑内障患者連盟が展開している緑内障による失明を減らすための国際的な啓発活動(イベント)です。この機会に緑内障について正しく知っていただき、どういうことをすれば目の健康を守ることができるのか、緑内障研究の第一人者、東北大学の中澤徹教授にお話を伺いました。
中澤 徹(なかざわ とおる)
東北大学大学院医学系研究科 神経感覚器病態学講座・眼科学分野 教授。
眼疾患早期発見コンソーシアム会長。日本を代表する緑内障の研究者。緑内障による失明をゼロにするために幅広い活動を行なっている。
緑内障とは
緑内障は日本の中途失明原因の第1位にもかかわらず、世の中にあまり知られていません。
緑内障は、目から入ってきた情報を脳に伝達する役割をもつ視神経が障害されることによって、視野(見える範囲)の一部が欠けていき、症状が進むと失明に至ってしまう怖い病気です。一般的な緑内障は、眼圧が高くなることによって目の神経が障害されていきます。
40歳以上の日本人の20人に1人が緑内障であると言われており、原因の一つとして遺伝のものがあげられます。緑内障を持つ方のお子様は、一般の方に比べて約9倍緑内障になりやすいといわれています。
緑内障は、眼圧が上がるタイプの緑内障か、上がらないタイプの緑内障かによって変わります。眼圧が上がるタイプの緑内障は眼房水の流れが悪くなることでおこり、眼圧が上がらないタイプの緑内障は目の血流の悪さや、酸化ストレスによって視神経がダメージを受けておこります。
緑内障と眼圧
目の知覚神経は前眼部にしかありません。そのため目の中にゴミが入ると痛みを感じますが、目の奥で異常があっても痛みはなく、自覚症状がないのです。緑内障と関連が深い眼圧が高くても、痛みは生じないので気がつきにくいという特徴があります。
そもそも眼圧とは何でしょうか。目の中で循環している眼房水は、毛様体で血液から栄養分のある透明な水がこしとられたもので、これは水晶体や角膜に栄養を届けています。
眼圧とは、目を内側から外に向かって押す力で、つまり目の中の圧力のことです。眼房水が目の中で溜まると、眼圧が高くなります。
眼圧を測るには、眼科で診てもらうことが必要です。眼圧の平均は10~21mmHgで、日本人の平均は14 mmHg程度と言われています。眼圧が高いほど緑内障のリスクが高まります。
眼圧が高い状態でも自覚症状がなく、視野が欠けるようになってから病院に行き、緑内障が発覚するケースもあります。
緑内障とストレスや食生活の関係
緑内障は、ストレスや食生活と相関関係があると考えています。ポリフェノールやフラボノイドなど抗酸化力のある食材を意識して摂ることで緑内障になりにくい、または進行が穏やかになったという論文がいくつかあります。抗酸化力のある成分は、ブルーベリーに含まれる「アントシアニン」や、緑黄色野菜に含まれるカロテノイド「ルテイン」などが代表的なものです。
緑内障の患者様からどのようなことに気を付けたら良いのかと相談されたときは、緑黄色野菜を意識して摂ることや、ストレス緩和のため適度な運動をしていただくようアドバイスしています。
緑内障と血流の関係
最近の研究で、血流が良くない方は緑内障の可能性が高いということが分かってきました。特に手先・足先の細かい血管、毛細血管は体や目の健康状態を顕著に表します。
例えば、顔色が白っぽい、冷え性がある、片頭痛がおこりやすい方などは、低血圧であったり、血流が悪い可能性があります。また近視の方は、目の血流が悪くなっている可能性があります。
しかし、冷え性や近視を持っている方の中にも血流が良い方もおられるので、気になる方は眼科で測定いただくのが良いと思います。
眼科へ通院される前の段階として、毛細血管観察装置「血管美人」という機器があり、解像度の高い顕微鏡で手の薬指の爪の付け根にある毛細血管を観察することができます。
毛細血管は全身の血流や健康状態を表しており、生活習慣や食生活の偏りや、ストレスなどさまざまなことが分かります。最近では目の健康状態と血流の関係をテーマにした研究も進んでいます。
眼疾患早期発見コンソーシアムとは
緑内障と眼圧の関係も含めて一般的に緑内障の認知度が低いのが現状です。
私たち医師が病院でいくら待っていても、通院されていない患者様にアプローチすることはできません。そこで東北大学病院、宮城県眼科医会が中心になって目に関係するさまざまな企業・団体・個人にお声がけをして、目についての正しい知識や情報をもっと多くの方に発信するために「眼疾患早期発見コンソーシアム」を設立しました。
また3月には「世界緑内障週間」が実施されます。
「世界緑内障週間」とは、世界緑内障連盟と世界緑内障患者連盟が展開している緑内障による失明を減らすための国際的な啓発活動(イベント)です。また日本緑内障学会が中心となり、ランドマークとなる施設をグリーンにライトアップする「ライトアップinグリーン活動」という取り組みもあります。コロナ禍でできる活動は限られていますが、この機会に緑内障を知っていただきたいと思っています。
緑内障の治療
世界では眼圧が高いタイプの緑内障が多いのですが、日本人の場合は7割が正常眼圧緑内障だと言われています。眼圧だけでは判断できないため眼底検査が必要になります。
人間ドックで眼底検査をし、視神経乳頭陥凹が見つかった場合、緑内障の可能性が極めて高いです。放っておかず、必ず眼科へ行き、視野検査などを受けましょう。
緑内障は原因がはっきりと分からず、進行を止める治療法がないというのが現状です。点眼薬を使うと緑内障の進行が穏やかになるため、現時点では最善の治療法であるといえます。
現在、眼圧を下げる点眼薬が20種類ほど出ていますが、自分に合うものをお医者様と相談してください。最新の研究では、緑内障によってダメージを受けた細胞を再生する技術が生まれていますが、まだ人に移植できる段階ではありません。
しかし、遠くない未来に緑内障を完全に治療することができるようになる可能性がありますので、何もせず待っているのではなく、少しでも現状を維持できるように努力を続けましょう。
最後に
緑内障は早期発見、早期治療が重要な病気です。目の専門家である私たちは「眼疾患早期発見コンソーシアム」を通して失明ゼロを目指して活動しています。皆さんも目の健康を守り、定期的に眼科で検診を受け、見える生活を大切にしていただければと思います。
■中澤徹先生の緑内障講座はこちら(YouTubeに繋がります)
※ 本サイトにおける各専門家による情報提供は、診断行為や治療に代わるものではなく、正確性や有効性を保証するものでもありません。個別の症状について診断、治療を求める場合は、医師より適切な診断と治療を受けてください。